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CTOとはいったいなんだったのか ver. 2024
先日、9月末の株主総会にて、4年半勤めたスターフェスティバルの取締役CTOを任期満了で退任し、3度目のCTOキャリアを終えました。
(直接ご挨拶できていない方もたくさんいるのですが… この場を借りてご報告させていただきます… スタフェスCTOとして大変お世話になりました。引き続きよろしくお願いします。)
n回目、みたいな話に関しては、別に多い方が良いみたいなことではないので(むしろ1つの会社でCTOをやり続けている先輩などは、めちゃくちゃ尊敬している)、それ自体がどうって話ではないのだけれど、昨年 P2BCTO の LT で話した通り、様々なタイプの組織でCTOを経験をすることによって得られるものや自分自身に積み上がるものを実感したので、今日時点での自分の考えをアウトプットしておくことにしました。
なお、ver.2015 はコレで、まあ、あれから10年弱たったところ、という感じなのですが、引き続きこの内容に関しては実践しています。
退任にあたっては、スタフェスのめちゃくちゃ優秀なエンジニアたちが、CTOとしての役割を引き継いでくれたのですが、その際にいろいろな話をしたので、そのなかの一部を言語化しておく意味でもあります。
なんかじっくり書こうとすると一生書き上がらない気がするので、シュシュっと書きます。
経営とマネジメント
散々色んな人がアウトプットしているので(自分も含め)、今更ではあるのだけど、まあ、CTOってなんなんだっけみたいな話でいうとやっぱり「技術」を軸として「経営」をするとうのが自分のなかでしっくりくるなぁ、と思っています。
マネジメントの目的は結果を出すこと
それで、マネジメントってそもそもなんなんだっけ、の話でいうと結局、結果を残せ、ということにほかならないと思っていて、その中でどのような技術を使うか、どれだけ作り込むか、みたいな話は究極的に言えば些末な話ではある、という考えが根底に存在しています。
(と、これだけ聞くとちょっと過激な物言いなんですが、それ自体を肯定しつつ否定するという話なのでもう少し聞いていただけると。)
でも、僕らはエンジニアなので、当然それじゃあ面白くないよね、面白い技術触りたいし、できれば技術によってその結果を出せる、というのが一番うれしい。
だからやっぱり、技術経営において最もやりがいのあるポイントというのは、この技術的なチャレンジと、事業としての成功の両方を引き出す立場にいることなのではないか、と思うのですよね。
経営の統制のためのビジョンとミッション
話は一旦それるのですが、ビジョンとミッションを定める組織は昨今のスタートアップにとっては非常に重要なことであるとされていて、スタフェスでも、もともと制定されていたバリューをより使いやすくし、この4年半でそれを浸透させてきた実感があります。
経営目線で言ったら、ビジョンというのは「経営理念を社員や社外に伝えるためのメッセージング」であり、「バリュー」はそれを実現するために社員が体現すべきものであるのは間違いないのですが、自分自身が経営に関わっていて思うのは、これらは「経営→その他の人」に対するメッセージだけでなく、経営そのものを統制する役割にあるのではないか、とも思っています。ここでいう統制というのは、取締役会などの会社法上の定義ではなく、経営そのものを行っていく際に、その意思決定を行う際のマインドセットのようなものです。
なんでそんな話をしたのかというと、会社経営をしていると、常に様々な難しい問題に直面します。目先の売上、中長期的な成長、思わず飛びつきたくなる魅力的な市場環境などなど。
経営メンバーというのはそういうものを決めて組織を動す力がある。権限が与えられている。ある意味でいうと、与えられてしまっているがゆえに、誘惑にもさらされる。今の事業よりこっちに飛び込んだ方が良いのではないか、資金調達したお金をこの事業に注ぎ込んだほうが大きく成長できるのではないか、などと。
で、もちろんひとつの事業に依存するリスクというのもあるのでその都度新しいチャンスを見つけて新規事業として、2つ目、3つ目の柱を作っていくことは大事だと思うし、最近ではコンパウンド戦略的な、複数の柱を作って大きな事業をなすみたいなもの必要はシーンはあるけどね。
(まあバーティカルSaaSの市場規模が限定的だから時価総額を作るための戦略、みたいなものもあるけれど)
話がそれまくってるけど、何が言いたいかと言うと、ミッションやビジョンを制定する重要さは、経営陣が自らを統制し、そういった会社の存在意義から外れない、大きく道を踏み外さないようにするためにあるよなぁ、と思うわけです。
まあ、市場・時代や技術の変化に対応して、それ自体を変える必要性が生じることはあるけれど、それはそれとして。
このように、権力には統制、まあこれは会社に限らず、国家権力者と憲法然り、力あるところには統制が必要というのはまあ知られた話。
経営を技術の面から統制する役割
で、また技術経営的な話に戻ってくると、CTOみたいな役割は「技術的な側面から経営を統制する」というものがあるかなーと最近は思っています。
目下結果を出しつつ中長期的にプロダクトが正しく進化できるような、ギリギリのラインの見極め
しかしそのラインを越えられぬように、経営の意思決定を技術面から統制する
ここで、前述した「技術的なチャレンジと、事業としての成功の両方を引き出す」に戻って来るわけです。
技術的なチャレンジと書いたけど、チャレンジに限らず、データ構造、ソフトウェアアーキテクチャを、インフラを、テストコードを、今の事業構造に対してあるべき姿にアップデートしていくこと、つまりはリファクタリング (わざわざそういう言い方をしたのはリファクタリングとは、「コードをきれい」にしたり、「モダンなソフトウェアを使う」ことじゃあない、ということをいいたいだけなんだ。) も含め、ですね。
基本は事業成長のためにコードを書くのだけど、しかし、もはや語り尽くされたように「目の前の目標の達成」のみに重きを置き、その他のすべてを犠牲にすると、組織やプロダクトが長期的に死に向かってしまう。
だからこそ、そういう意思決定がされないように、ラインを踏み越えないギリギリの攻めができるように、経営の意思決定の中に技術面から見た会社の現状を織り込んでいくことができると良いのかなぁ、と思ったりしています。
だからCTOは「社内で一番技術がわかる人」じゃなく「経営メンバーの中で一番技術が分かる人」である必要がある、という話なのかなぁと思います。
(まぁ、事業モデルによってCTOの立ち絵姿みたいなものは異なるので、多くの事業会社においては、くらいの感じなんだけども。社内で一番技術のわかる人をCTOに置く必要のある会社があることももちろんあるとは思う。)
良いチームを作る必要性
というわけで、今自分が思っているのは、やっぱりソレを実現するには「良いチーム」って必要だよなぁ、と思っているわけです。
つまり、上記のようなバランスを自分が発揮したとして、ソレを体現していかないと、結局なにもアウトプットできない組織になっちゃうので。
長期的に良い経営をする (つまり、持続可能な状態を作り上げる) ための「良い(開発)チーム」とは、
事業の結果に貪欲であり、
それでいて技術的な挑戦を諦めず、
絶えず技術と事業の間に立ってベストを尽くすこと
ができるチームだよなあ、と思っています。
スタフェスの開発チームは本当に良いチームだなぁ、と思っています。もちろん心理的安全性が確保されているというベースのところはありつつ、仲の良いチームとか雰囲気が良いチームとか、そういうことではなくて、事業結果に対する適切な緊張感と、技術課題への真面目な取り組みの両輪をしっかりできるチームなんじゃないかなと。
そういうチームをつくれるメンバーと出会えたこと、自分に同調してくれてそれを体現してくれるメンバーに、心から感謝しています。
エンジニアに対して強く出る役割
CTO として、技術経営者としての役割で意外と抜けてしまうのがこのポイントかなぁと思うのですが、やっぱり開発チームに発破をかけられる経営者としての役割を全うしないとね、と思っています。
おそらく、自分と一緒に働いたメンバーは、「こいつ、結構圧が強いな…」と思っていたんじゃないかなぁと思います。(いや、「むやみに圧の強かった」昔の話じゃなくて…)
意図的にやっていた部分もあるんですが、エンジニアだからこそわかる「もっとこうすれば早くリリースできるんじゃないだろうか」「この部分はこういうふうに設計しようとしてるけど、現時点ではこの設計は過剰なんじゃないだろうか」などの、どのラインなら許容できるのかを、経営の側だけじゃなくて、開発側でもやらないとね、と思っているわけです。
いやほら、エンジニアリングのわからない社長とかに、「別にこんな設計しなくていいんじゃない?早くリリースしてよ」って言われたらみんな結構ムカついちゃうと思うんだけど(場合による?)、エンジニアリングのわかるCTOに言われたら「うーん、たしかに、それならこうできるかも」みたいになるじゃないですか。
自分自身も、自分の開発だと客観視できなくて、ミクロな設計にこだわりすぎることも多々あります。
自分自身がエンジニアだからこそわかる、技術へのこだわり
それに対して、唯一強く出られる立場
結局、経営に対しては技術面から統制し、技術メンバーに対しては事業面からしっかりプレッシャーをかけていく。板挟みでありながら、それが一番うまくできる立場にいるはずなので、それをやっていけると良いね、と思っています。
サクセッションは最初から
今回、引き継いでくれたメンバーには本当に感謝でしかないんですが、ある程度うまく次の体制というのが立ち上がったイメージでいます。これは、入社してから退任まで、自分からのメンバーや社員に対するメッセージを、常に、「自分からのメッセージ」ではなく「会社からのメッセージ」として発信していたところが、結構良かったんじゃないかなぁと思っています。
もちろん、自分についてきてくれていたメンバーもいて、それはそれですごく嬉しかったのですが、基本は、自分は会社からのメッセージを増幅させる役割だったのかな、と。
良きマネージャーは触媒であれ
コレに関しては以前LTで絵を書いたので、こんなかんじのことが言いたい、という。
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みたいな。
まとめ
なんか長くなっちゃったんですけど、そろそろまとめます。
一緒に働いてくれたメンバー、これからのCTO的な役割を担ってくれるメンバー、まだまだやり残したことはありつつも自分を尊重して送り出してくれた経営メンバーにも感謝しかありません。
本当に、貴重な経験をさせていただきました。ありがとうございました!
今後は、からっちと一緒にやっている Almoha メインでコミットしていくので、そっちの話も今後また!応援してください!
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業務委託としての技術顧問等、お仕事少し募集しているので、案件ある人は是非相談してください!
P2B Haus 来てください🍻
sotarok の次回作にもご期待ください、ってことでシメにしたいと思います!