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ショートショート『チョコレント』 #シロクマ文芸部

チョコレートを持った博士が、弟子のもとに駆け寄ってきた。
「面白いものが完成したぞ。飲まず食わずで実験した甲斐があったもんだ」
「研究をやめてお菓子作りでも始めたんですか?」
「これも立派な研究の成果だ。名前を"チョコレント"という」

「チョコレート?」
「ちがう、チョコ・レントだ。どれ試してみよう」

小さなチョコレントを半分に割り、二人で分け合って食べる。
すると、弟子の腕から、一枚の板チョコが生えてきたのだ。

「うわっ、なんだこれは!?」
「ほぅ、意外と少ないもんじゃな」
博士が生えた板チョコを指さす。
「これはチョコを分け合った二人の貸し借り関係を表すためものじゃ。この場合、お前さんはワシに一つ"借り"を作った状態だということになる」

博士は自信満々に続けた。
「味にもこだわっとる。うまいぞ」
弟子は怖がりながらも、一口かじってみる。
「あ、ほんとうだ。美味しい」

「ちなみに、どうやったら、なくなるんですか?」
「借りをなくせばいい。困っている相手に対して親切にすればなくなる」
「なるほど! 博士、何か困ってることは?」
「特にないのお」
ショックでうなだれる弟子。

こうなれば強行突破だ、と考えて
生えたチョコを腕から引きちぎってみる。
でも、すぐに新しいチョコが生えてきた。
「うへぇ、どうなってるんだ」
「な、すばらしい再生能力じゃろ?」
「困った。このままではシャワーを浴びても余計に汚れてしまう」

どうしたものか、弟子が黙って考えていると
正面からグゥ、と音が聞こえた。

「すまん、何も食べることも忘れて研究してたもんで……だが困った、冷蔵庫には何も入っていない」
そこで弟子が、腕から生えたチョコを差し出す。

「とりあえず、このチョコ食べます?」
「おお、ありがとう」
博士がチョコを一口かじる。
「ふむ、うまいな。どれ、もう一口」
しかし、弟子の身体からチョコレントが消えてしまった。
「あ……」
「借り、返せたみたいですね」


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