工場の使命 エリヤフ・ゴールドラット著 「ザ・ゴール」

私はメーカーで働いている。入社後10年近く国内の工場で勤務し、その後8年ほど本社でバックオフィスの仕事をしてから、この度海外の製造拠点で仕事をしている。海外拠点への異動早々に、社長との面談があり、趣味を問われた際に読書だと回答したところ、海外では日本の本はなかなか入手できないし、暇を見て読んでみろよと手渡されたのが本書。私は以前中小企業診断士試験をパスした(おそらくこの海外赴任中に免許は取れずに失効する)が、本書はその勉強の際に、メーカーでの工場勤務経験を持たない人が、運営管理に取り組むための必読書として紹介されていた一冊だった。当時から興味があったので、再び工場勤務をするにあたって、読んでみることにした。

結論から言うと、単純に読み物として面白い上、工場勤務に携わった経験がある方にとってはさらに面白く、勉強になる一冊だった。本書を読んだことが、今後の私の海外拠点での仕事に大いに役に立つと確信している。

本書は不採算が続き、本社から3か月以内に改善をしない限り、工場を閉鎖をすると言い渡された工場の工場長アレックスが、学生時代の恩師、ジョナからのアドバイスをもとに、再建に向けて注力する話。彼は同時に奥さんから別居を言い渡され、家庭の危機も解決しなければならないという、人生のどん底状態にあった。

アレックスはジョナと偶然空港で出会った。その中で、この工場では、ロボットを導入し、自動化によって36%の効率化を達成したことを告げる。しかし、ジョナから効率化にもかかわらず、一向に利益が上がっていないことを指摘される。その原因を探るところからアレックスの工場再建が始まる。実際の工場の生産性を左右するのは、最も生産に時間のかかる部門、すなわちボトルネックとなっている部門であり、その部門の生産性を上げない限り、工場全体の生産性は上がらない。高効率となった部門は生産を続けて在庫を積み増すか、生産をやめて従業員を休ませるか、のどちらかしかできなくなり、業績やキャッシュフローの悪化をもたらす。そのことにアレックスはボーイスカウトのハイキングの引率で、子供たちが計画通り工程を進まないところにヒントを得て気づく。

ボトルネックの解消が生産上の課題だというのは、基礎の基礎。中小企業診断士試験でも、たびたび出てくる問題で、文章として単純化されると、ここが課題だと理解できる。しかし、実際の工場のオペレーションで、ボトルネックとなる工程を見つけることは容易ではない。つい効率化〇%という派手な数字に目が向いてしまう。だからこそ、本書でアレックスと共に地道な分析や、何気ない日常生活からのひらめきを追体験し、ボトルネックこそが生産性を左右するのだということを身をもって理解することが重要になる。

ちなみに、私は工場の使命は、いかに品質のばらつきのない製品を、生産性を高めて生産するか、だと思っている。能力増強投資で生産能力を二倍にするのも、生産効率を2倍に高めるのも、結果は一緒。しかし、かかるコストは多くの場合後者の方が低い。本書はこうした工場運営の一丁目一番地を、再確認させてくれる一冊だと思う。

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