イメージ一新 山本渉著「任せるコツ」
サラリーマンの中で部下を経験していない人などほぼいない。多くの方が会社で最初にお世話になるのが上司である。その上司には素晴らしい上司もいれば、残念な人もいる。自分が上司になった時には、前者でありたいものだ。そこで、過去の上司を振り返ると、いい上司のマネをしたい一方、マネしたくない上司もいる。後者には明らかに問題のあった方はともかくとして、いい人なのに残念な上司もいた。その一つの要因に、仕事の任せ方が下手だということがある。それは多くの場合、自分ひとりでやってしまうか、丸投げばかりかのどちらかに分類される。そうして部下は「丸投げ」に悪い印象を持ち、いざ自分が上司になると部下に丸投げができなくなっていく。しかし、「丸投げ」のやり方は誰も教えてくれず、多くの方が自己流でやっている。本当に「丸投げ」は悪なのだろうか。その問いに答えるのが本書。
著者の山本氏はマネジメントの中で、「間違った丸投げ」が横行していること、相手のことを考えた「正しい丸投げ」は個の成長を促し、組織全体の幸せにつながるとはじめに述べる。
相手のことを考えるには、①依頼時に相手のメリットを提示する ②依頼に断る余白を持たせる ③相手の意欲や適性にマッチングした依頼をする ④意欲や適性を知るために、部下の話の聞き役に回る ⑤仕事のフィードバック、感謝と評価を相手に伝える ⑥対象者の過去と比べ、成長したポイントをほめる ⑦部下の負荷を考えた達成可能かつ適度なチャレンジにする などのポイントがある。これらを通して、部下の成長を促すのが上司の仕事である。この手段として「丸投げ」を使えば、「丸投げ」は悪ではない。
部下の成長を促す「丸投げ」には、「まみむめも」、すなわち「任せる」「見守る」「報いる」「目指す」「目的提示」のループを回すこと。すなわち、相手の意欲や適性に沿った適正なタスクを「任せ」、任せたら相手を信じて口を挟まず「見守り」、成果に応じたフィードバックとほめることで「報い」、次のゴールを「目指し」て、その「目的を提示」し、次のタスクを「任せる」というループである。
「ほめる」と「叱る」にもテクニックがある。ほめるのはいいところを見つけるテクニックだ。なかなかそれを見つけられない人材がいることは否めない。そんな時には「リフレーミング」を行う。すなわち視点を変えること。短所と思われることが、言い方を変えると長所であったりする。例えば、「頑固」→「自分がある」などだ。こうして長所を探してみる。それでも難しい場合は、直すところしかないのだから「伸びしろがある」という見方もできる。一方、叱り方には、徳川家康の「𠮟り方」が参考になる。①本人だけにやわらかい言葉で伝える ②最初に今までの功績を称えて感謝する ③最後にこの先も期待していると伝える ④家来への𠮟責は自分への戒めととらえる といったこと。このほか、ほめ言葉で前後を挟む「シットサンドウィッチ」や叱る「WHY」を伝えることも役立つテクニック。一方で「みんなの前で」「ネチネチと」「人格否定をするように」叱ること、すでに深く反省している人を叱ることはNGであることは、過去の経験からすんなり理解できるだろう。
これらを理解して、「丸投げは悪だ」というマインドセットを改める必要がある。メンバーの力を信じ、やり方を任せた上で、大きな事故は起きないように見守りながら、多少の失敗は許容する。そうすれば各メンバーが成長し、チーム全体の能力が上がる。最終的には、上司が不要となり、存在が意識されなくなれば最高だ。真面目にコツコツを美徳とする日本人は、仕事がなくなるとさぼりだと感じがちだが、それはプレイヤーであった頃の話。リーダーになると、もはや仕事をしない方が望ましい。そうすれば、有事の際に対応できる余白を持つこともできる。
キャリアを重ねて上司になっても、上司のやり方はわからない。そんな時に、過去の上司がどうしてもモデルケースになる。その中で、ただでさえ忙しいのに、丸投げをされて腹を立てた経験をある人が多いのではないだろうか。その経験を思い出すことで、部下に丸投げをすることができなくなっていく。しかし、それはその方の丸投げの仕方が下手だっただけである。自分の過去の仕事を振り返ると、主体的に頭を使ってやった仕事は、うまくいっても失敗しても学ぶものが多かった。それと同じ経験を、愛をもって行えば、きっと部下は理解してくれる。そうすれば、次の世代は「丸投げ」にネガティブな印象を持たなくなり、その次の世代に愛をもって「丸投げ」をするようになるだろう。そうして各メンバーの成長をじっくり見守る組織になること。それが昨今よく言われるサステナブルな組織なのではないだろうか。とても読みやすい本であり、そのようなリーダーになりたい方にお勧めの一冊。