裏話。誰も知らない多面評価(360度評価)の使われ方 by転職定着マイスター川野智己
多面評価。別名、360度評価ともいうこの評価制度は、従前からの上司が部下を評価する制度と異なり、逆に、部下が上司を評価する制度のことをいう。産業界においては25年ほど前に一旦ブームがあり、導入していた企業があった。
しかし、昨今、評価制度の多様化の一環で再び導入している企業が増えつつある。
私は、かつて、教育コンサルティング団体に籍を置いたころ、「人事測定事業」またの名を「アセスメント事業」として、採用テストやモラールサーベイ(従業員満足度調査)の開発と営業に従事していた。
特に、採用テストに関しては、当時の市場トップシェアを誇るリクルートのSPIに次ぎ、2番目のショアを持っていたテストを取り扱っていた。ここまで言うと、わかる方にはわかるかもしれない。
今回取り上げるのは、多面評価である。
具体的には、部下や同僚が、管理職を評価の対象として「理念の説明や目標の提示を行っていますか」「困ったときにサポートしてくれていますか」などを項目とする評価制度である。
今日は、企業内において、実際にどう使われているのかわかりやすく説明したい。
必ずしも、提供する測定会社の意図とは相容れない使い方をしている企業が、実際のは多いことを先に申し上げておこう。
1 多面評価の導入事例(ある地方銀行の導入例)
私は、ある地方銀行、それもかなりの大手に、多面評価制度を導入した経験がある。
すべての支店の支店長が評価対象になっていた。
設問のうち、3割は銀行側がカスタマイズした設問を組み入れた。
内容は、大きく分けて2つだった。
ひとつは、純粋に支店長の人に対するマネジメントへの評価。
もうひとつは、支店長の成果(例えば預金獲得額)への取り組み姿勢への評価。
私に対しては、導入の狙いとして銀行側は、「結果を本人に提示して、気づきを促し、成長への材料として認識もらうため」と、あくまでも人材育成が目的であると説明にとどまっていた。
ところが、その半年後、銀行内で大幅なリストラがあり、支店長の3割が交代し、その後多くが退職していったと聞いた。
そう、銀行側が多面評価を導入したのは、厳しい経営状況を鑑み、成果主義の人事制度に切り替えるにあたり、成果を挙げられそうもない支店長をふるいにかけることが目的であったのだ。
このように、多面評価や従業員満足度調査(モラールサーベイ)などの組織診断は、「従業員からどんな意見が挙がるのかな。とりあえず、聞くだけ聞いてみよう。」という、安直な導入をされることはまずありえない。
ある目的、それが大幅な組織変更であったり、リストラであったりするが、その目的に沿った設問項目が最初から設定されているのだ。
そしてさらに、経営者の意図する結論へ誘導されるような構成にされている場合もある。例えば、これは従業員満足度調査の例だが、「わが社は、厳しい経営状態にある。年功序列ではなく成果に応じた賃金体系が相応しいと思いますか」と聞かれれば、上司・部下ともNOとは書きづらいものだ。まるで、自分は成果を出せない人間であると、自分で是認したようなものだから。バイアスを意図的にかけている。
無記名であっても、社内の専門機関経由の提出であっても、属性や年齢、性別欄でもしくは隠し通し番号が付けられ、結局は個人名が把握できるような仕組みになっていることが多い。回答する側も、これがけん制機能として働き、なかなか会社側の意図する回答と真逆な回答はつけづらいことになっていることは、提供する側としては残念な運用方法と言える。
多面評価も、先の地方銀行の例にもあるように、企業側が数百万、数千万円投資して、「単なる意見徴収」を行うはずがないことは誰でも想像できるであろう。
結果、職場はぎすぎすしたものになり、管理職も部下に遠慮し厳しく指導ができなくなっていった。
その地方銀行は、数年後に大きなコンプライアンス上の事件を引き起こし、他銀行と合併を余儀なくされた。
2 これからの多面評価のありかた
多面評価に関しては、功罪の功につながった事例は、残念ながら殆ど聞いたことが無い。
それは、本来、対象の当事者への気づきの材料に留めるべき仕組みであるはずが、それを過剰な位置づけに持ち上げ、評価システムにまで昇華したことがそもそもの誤りである。
労組をはじめ、上司の不満を持つ部下側からの要望だと称して導入した企業も、その後の社内風土の悪化など、高い代償を払いつつある。
良くも悪くも、不満があれば、「その時点で」「その場で」「直接本人に対して」率直に意見できることこそが、健全な職場だ。
そこに、本社人事部が介在して、評価ツールとして、告げ口ツールに転化させてしまうことは、もう再考すべき時期に来ているとつくづく感じる。
以 上
※参考記事
「秘技。良い人事評価を引き寄せる術。「輪郭力」で転職先での給与アップを。」
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