ゲーム「新すばらしきこのせかい」のはなし
はじめに断っておくのだが、私はこの「すばらしきこのせかい」というシリーズ作品に今作の体験版で初めて触れて、惚れ込んだ末に発売日に購入した。つまり、前作はプレイしていない完全新規プレイヤーである。それほどまでに体験版をプレイしたときのインパクトが強かったのだ。
作品内にはもちろん、前作を知るプレイヤーであればニヤリと出来る(のだろうと想像できる)ような描写がいくつも見られた。しかしそうでなくとも、例え予備知識のまったくないプレイヤーであっても存分に楽しめるゲームであった、ということを声を大にして言いたい。
非常にテンポの良い会話劇が繰り広げられるおかげで、初心者であってもすぐに作品内の雰囲気に馴染むことが出来るし、飽きることがない。
そして目を引かれるのは、ポップで個性的なデザインの数々だ。上手くデフォルメされた渋谷の街の様子や、装備品として登場するオシャレなファッションアイテム。豊富なデザインパターンのあるバッジなど、見ているだけで楽しくなるような小道具に溢れている。
―現代っ子の成長物語
今作はデスゲームという非日常が舞台であるが、現代社会にありがちなコミュニケーションの問題を取り上げたゲームでもある。
まず主人公は良い意味でも悪い意味でもTHE・現代っ子といった感じだ。ストーリー上で分かりやすい描写があっただけでも、
・分からないことは人に聞くよりスマホで調べる
・オンラインサロンを開いているような意識高い系インフルエンサーに影響を受けた経験がある
・誰かと本音でぶつかり合うことに抵抗を感じる
・誰かに本心を打ち明けることを恥ずかしいと感じる
・しかしネット上の顔の見えない相手になら相談ごとも普通にできる
・何かを本気でやることをダサいと感じる
といったような、いわゆる王道的な主人公像からはかなり離れた人物設定であることが分かる。むしろ、本当にどこにでもいそうな普通の現代の男の子なのだ。
特に「誰かと本音で話し合えない」「本心を打ち明けられない」というのはかなり致命的で、それが原因でチームが一時バラバラになってしまう事態にもなる。
そのバラバラになるまでの過程も、ものすごくリアルな若者の事情といった感じ。
というのも、本音でぶつかりあった訳ではないから、決して派手なケンカにはならないのだ。だがそのぶん、モヤモヤとした険悪なムードがダラダラといつまでも続いてしまう。なんとも気まずいやり取りが繰り広げられ、その微妙な雰囲気が画面越しにこちらにまで伝わってくる。
もちろんそのままではいられない。デスゲームでのチームの敗北は、そのまま自分たちの死へと直結しているのだから。お互いを信じ合えない状況では、チームに勝ち目などないのだ。
そこで彼らは、生身の人間としてのコミュニケーションを取り戻していくことになる。本当の自分の言葉をぶつけ合い、投げかけ合い、理解し合っていく。
結局のところ、言葉にしないとなにも伝わらないのは令和だろうが平成だろうが昭和だろうが一緒なのである。
正面から向き合って言葉を尽くして説得する、という非常にアナログなやり方で協力者を増やしていく。
それは味方に対してだけでなく、敵である他チームのメンバーに対しても同じ。
そうして敵味方関係なく、すべての者達が協力しあった大団円へと繋がっていくのだ。
この終盤の流れの素晴らしいところは、数多く登場するキャラクターたちそれぞれにちゃんと見せ場が用意されていることだ。そして彼らがみな主人公であるリンドウを信じ、希望を託すところだ。
上辺だけのコミュニケーションならば、これだけの関係を築くことは出来なかっただろう。敵は敵のままだったろうし、仲間だってどこまで付いて来てくれたかわからない。
それを乗り越えて成長したからこそのラストなのである。現代の若者の成長物語として、これ以上のものは中々ないだろう。それも、ここまで積み上げてきた“リアルな現代っ子像”があればこそなのだ。非常に細やかな人物描写と、それが生み出す結末にただただ感心するばかりであった。
―シンプルだが何通りもの組み合わせがあるバトルアクション
個性的なバトルシステムも本作の大きな魅力だ。それはチームメンバーそれぞれがバッジを一つずつ装備し、そのバッジが持つサイキック(技)を発動できるというもの。
そのバッジには非常に豊富な種類があり、アクションもさまざまだ。
剣で斬る・蹴る・殴る・打ち上げるなどの近接攻撃はもちろん、ビームを撃つ・複数のミサイルを飛ばす・矢を撃ち込む・一定範囲の地面を巻き込むなどの遠距離攻撃。鎖で拘束する技や、設置したボムを時間差で爆破する・周囲にあるものを振り回してぶつける、とにかく物を投げつけまくる、などトリッキーなものもある。
そしてそれらのアクションにも、細かな別パターンが存在する。たとえば一口にビームを撃つといっても、それが一本の長い直線であったり幅のある複数のビームだったりする。なにかを設置するタイプの技でも、それが爆弾であったり四角い形の有刺鉄線を張り巡らせるものであったりするのだ。
他にも補助系のバッジであれば、短時間の攻撃を防ぐもの、回復するもの・攻撃力をあげるものなど、とにかく色んな効果のものがある。数で言うと300種類以上だ。
それらのバッジにはコントローラのボタンが割り当てられており、たとえばプレイステーションであれば△で発動するもの、R2で発動するものといったようになる。重複しないようにすれば、最大で6個のボタンを使って攻撃が出来る。バッジによってはボタンの連打が必要だったり、長押しが必要だったりととにかく手元が忙しい。
しかしその指が忙しい“ワチャワチャ感”がとても楽しいのだ。パーティキャラクターもストーリーを進めていけば主人公を含めて6人となり、そして全員を戦闘で使うことが出来る。みんなで敵をタコ殴りにするボコボコ感が、とにかくこのバトルの面白いところだ。
バッジの豊富さに対して敵モンスターの種類の少なさという若干の不満はあるものの、それを差し引いてもこのバトルは一度体験するに値するものだ。もし気になっているという人がいたら、とにかく体験版をプレイしてみてほしい。きっとこの面白さを理解してもらえると思う。