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今さらオペラ座の怪人初見感想

ネタバレあり
評価:4.7

6月、とても楽しみにしていた舞台の現場があったので、
どうしても体調不良を起こすわけにいかず2週間近い謹慎生活を送っていたため、観たい映画が溜まってしまった。
観劇も終わりやっと謹慎が解けたので、一番観たかったオペラ座の怪人デジタルリマスターから観てきた。
が、その後いろいろあって感想を書けずにいた……。
普段から舞台好きを公言しているので、
世界三大ミュージカルの一角を未履修で生きていることに引け目を感じて生きてきたが、
これにてようやく『オペラ座の怪人』を観ることができたので感想書きます。お時間ある方はどうぞ。

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教養のなさをつきつけられ、恥じ入るばかり


さっきも書いたが、演劇など文化的な芸術作品が大好き!
…とか言ってきたのだが、
なんと「オペラ座の怪人」を見たことがなかった。
んだけど、実は今年の年明けに生まれて初めてシアターオーブで海外のカンパニーの公演(ケン・ヒル版)でオペラ座の怪人を観劇していたのだった。
それは素晴らしい公演だったのだが、
けっこうコミカルな味付けがされており、これは初めての観劇にふさわしいものなのか?という一抹の不安も残った。
そういうわけで今年、オペラ座の怪人のデジタルリマスター版が映画館でかかるときいて、楽しみにしていたのだった。

観終えて、
これまで自分の人生に大きな影響を与えてきた作品の元ネタになっているなと感じて衝撃を受けた。

その一つは美少女戦士セーラームーンだ。
セーラームーンは私が人生の中で最も愛している作品の一つだが、
オペラ座の怪人のワンシーンである「タキシードを着た仮面の男が、ヒロインに赤い薔薇を一輪投げてよこす」光景に心当たりがありすぎた。
これめっちゃ見たことある。
セーラームーンの原作者、武内直子といえば本物の港区女子でありガチ良家の出身なのだが、そういう彼女だからこそ、インターネットがなく、地元のレンタルビデオ店の在庫がその地域の文化レベルに直結していたような時代、舞台作品のVHSを入手することが困難だった時代にも「オペラ座の怪人」を観たことがあったのだろう。
さらに、あのストーリーに共感し、共鳴して、憧れを感じられるような文化的な感性も持っていた。
私は幼心にセーラームーンの作品世界や登場人物たを狂おしいほどに愛していた。が、放課後に友達と宝石を買いに行く中学生として描かれる月野うさぎや、その作者である武内直子をロールモデルにはできないと感じてきた。
どれほど憧れても、真似できるところがないと幼心にわかってしまった。
そんな自分の貧しく田舎者であった自分の子供時代を思い出して切なくなるなどした。
このたびようやくこうして「オペラ座の怪人」に出会うことができたわけだが、まあ時すでに遅しで
「体験格差」を思い知らされたというわけだ。

もう一つはディズニーの美女と野獣だ。
これも大好きな作品だし、
この作品以降、陰キャ同士・メンヘラ同士の恋愛観に影響を及ぼしたのではないかというくらい示唆に富んだ内容だ。
(あの人を理解できるのは自分だけ、という孤独感の中で感じる感傷が主訴の恋愛という)
いや、でも、いま調べてみたら、「美女と野獣」の物語は「オペラ座の怪人」よりもずっと前に作られた物語らしい。
ということは、「オペラ座の怪人」の方が「美女と野獣」に影響を受けていたのか……?
どういう由来があるかは分からないが、暗がりで異形と出会い、初めは恐怖するが、
心の交流を通して、やがて愛になる、というあらすじは共通だ。
これほどまでに人の心をつかむ物語には当然「金字塔」のレビューがふさわしい。
ディズニーの美女と野獣は私も大好きな作品だが、
「オペラ座の怪人」の方が先んじてミュージカル化されたことで世界三大ミュージカルの名が冠せられるようになったというのもなるほどな思った。
(あまりにも良いあらすじなので、美女と野獣が先に上演されていたら世界三大ミュージカルの一つは美女と野獣だったかも)

「味変」できる作品


また、演劇的に「ハムレット」みたいに、
公演ごとに、もしくはカンパニーごとに、
もしくは演者や演出家の気分でも、
「真実」を自由に変えられそうなところが、
やはり世界三大ミュージカルたるゆえんなのかと思った。
シェークスピアのハムレットといえば、
登場人物の背後の思惑がある・ない、
それの匂わせ方でかなり作品の雰囲気が変わってくるし、
どこまで正気で、どこからは狂気なのか?も
演者や演出家がけっこう自由に決められる演目だと解釈している。
(違っていたらすみません)
だから、何度やっても飽きられずスリリングで面白く感じられるのだ。
この「オペラ座の怪人」も同様に、
主眼をどこに置くか?でかなり味変ができる物語だと感じた。
当然、クリスティーヌはファントムのことを本当に愛したか?というところはどっちにするにしても面白いし、
ファントムを実在の人物としてもいいし、非実在の亡霊としても良い。
これはラブストーリーだ!としてもいいし、ホラー&ミステリーの面を強調しても面白い。
しかもカンパニーや演者の側が「今回はこーいう解釈です!」と決めて打ち出していたとしても、
観客がひどい失恋をした直後の人ならファントムの存在に引き摺られ、恋の成就を願わずにはいられないだろうし、
めんどくさい奴に付きまとわれた経験がある人ならクリスティーヌにはファントムに見向きもしてほしくないし、ファントムには徹底的に失望して反省してもらいたいと思うだろう。
こういうまるで心理テストみたいに色んな見方ができる作品だからこそ、
長年世界中で上演される演目なのかもなと感じた。
私としても、
陰キャとしてファントムに感情移入したり、
一方的なファントムに迷惑しながらも音楽性が近く感性で分かりあってしまってぐらりとくるクリスティーヌに感情移入したり、
一時の感傷に酔っ払って意味不明な方向に突き進もうとする恋人を冷静に引き止めるラウルに感情移入したりして、心のありかがあっちこっち変わるので忙しかった。

悲劇か喜劇か


例えば太宰治の人間失格について、
「本当の悲劇は時に笑えるものだ」みたいなことを誰かが言っていた。
人間失格はひどい話だが、ひどすぎる話は不思議とたまにおかしさを感じさせもする。
この説が妙に印象に残っていて、
逆に、ただただシリアスになるしかない状況というのはまだ悲劇として底ではない、と思っている。
そういう意味で、私の人生も言いようによっては「笑えて」しまうなというのが実感としてある。
笑われたら悲しいので、あまり笑い話として話さないようにしているが。(笑い飛ばしたほうがいいのかもしれないけどね)
そういう意味で、このオペラ座の怪人の物語はたまに「笑える」。
そういう意味で、「最底辺」の悲劇のおもむきがある。
なので太宰治の人間失格みたいな救いのないヤバさ、すんごい鬱、みたいのが理解できない人はこのオペラ座の怪人も好きじゃないかもしれない。
が、やはり「世界三大ミュージカル」と言われるだけあって、チャイコフスキーみたいにキラキラしていて、アラン・メンケンみたいにキャッチーな、豪華絢爛な楽曲が次々に演奏される華やかな演目という一面もある。
かなり満足感というか満腹感のある作品なので
おすすめだ。
例えるとホテルのアフタヌーンティーみたいな、生クリームもりもりの甘いケーキと香り高いお紅茶みたいなロイヤルな観劇後感。
まだ見ていない人はいないかもしれないが、
もしいたら、面白いので機会があったら見てみることをおすすめします。

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