性的に少数な生き方をしてる人が「正欲」(映画版)を見た
ネタバレあり
評価:2.3
新興宗教二世の生い立ちのため、
40歳で恋愛経験なし、独身処女という、
言葉通りに性的に少数な生き方を歩まざるを得なかった著者が
朝井リョウ原作「正欲」を見てきましたのでその感想です。
結論から言うと私的にはイマイチでした。
ご興味のある方はどうぞ。
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恋愛はキモいのか
この映画を一言であらわすと、
あまりモテない人が
これまで何人かと付き合ってみたけど、
幸福感を感じられたことってなかったし、
楽しいとも思えなかった…
そういう経歴を気にしていたが、
近頃、同世代が次々結婚し子供を産んでいくので
自分と比べて不安になって
そもそも人間に備わってる性欲なんてさぁ!みたいに
大袈裟に疑いだす…みたいな、
そんな内容だと感じた。
私も40歳まで恋愛経験もなく生きてきたけど、
もちろん恋愛できないことも辛かったし、
結婚しないことで周囲からの奇異の目にもさらされ、
結婚して子供を産んでいく友達を驚きの目で見つめながら
疎外感を時に感じて生きてきたけど、
かといって
ここまで「恋愛」や「性愛」を徹底的に分解して、
ホラ、なんてことない、
ただの神経のたかぶりじゃん!
と解剖してみせるのもグロくね?というか、悪趣味じゃないかと思った。
そこまで露悪的にならなくても。
著者の朝井リョウのまわりには、
ウェイ!みたいな、
恋愛!結婚!子育て!最高!みたいなプリミティブなタイプの人間しかいないのだろうか。
だとしたら孤独を感じてあれこれ考えるのも仕方ないと思うが…
ちなみに私のまわりにもそういうタイプの人しかいません。ハハハ
それでも、
自分は今後もやんないし、やるつもりもないけど、
恋愛、結婚、子育て。
全て楽しく美しい、キラキラした、普通は取り組むべき、健康的なモンだと、思いたいです。
やらないですけど。
水に興奮する奴多すぎだろ
無機物に対する性的な興奮、
それも「水」に対する……
というのはまったく理解できなかったが、
でも終盤になって
この「理解できねー」というこの感覚こそが、
この映画が伝えたいことなのかなと思った。
私が(この映画を見ているあなたが)
まっったく理解できない性的な嗜好を他人が持っていたら、あなたはどう思いますか?と
映画を通して問いかけられていたというわけだ。
それにいくら奇妙に思えるとはいえ、リアリティーとしても、
例えば狂犬病にヒトが感染すると突然、水を怖がるという症状が出るのだという。
不思議だけど、脳や神経への作用でそうなるようだ。
だから、水に性的に興奮しちゃう、っていうのも、しくみ的にはありえなくないのかも……と思ったりもした。
誰も理解してくれる人がいない、
という疎外感についてだが、
私も新興宗教2世で、子供のころから殴られて育って、
そのせいかずっと生きづらくて、
でも自分で何がそんなに毎日辛いのか、ずっとわからなかったんだよね。
説明しようにも、親がやってる宗教が…などという前置きを誰が理解してくれたか?聞こうとしてくれただろうか?と思う。
けど今は「宗教2世」とかいう便利なワードが、
まさか世間の側に浸透し始めた。
自分の生い立ちが複雑で、しかしたいへん辛いものであるということを、こうも簡潔に他者へ伝えることができる日が来るとは夢にも思わなかったわけだ。
だから水フェチの皆さんにおいても、諦めずにいて欲しいなと思った。
いつか、世間の目が、関心が、突然水フェチに向く日が来るかもしれないから……
不幸マウントを取らせていただく
自分の話で恐縮だが、
そりゃあ40歳まで独身処女をやりながら社会生活を送ってると、
便宜上、結婚指輪をはめて出かけることも実際にある。
株主総会に出る時、歌舞伎など高めの舞台を見に行く時、渋谷でナンパをされたくない時(あまり効果はないが…)、大使館・裁判所など公の場に行く必要がある時……
外見の年齢的にも、「ひとかどの人物」であることを相手に知らせ、相手を必要以上にビビらせないために、
実は結婚してないどころか恋愛経験もない高齢処女だが、結婚指輪をはめて出かけるシーンはたまにある。
別にただの見栄なので、H&Mで買った200円くらいのサイズの合わない指輪を適当にはめて出掛けている。これならなくしても平気だからだ。
なので中盤、新垣結衣演じる桐生夏月が美しいケースにおさまった結婚指輪を贈られるシーンは普通にロマンチックで、
マジでそういうことをして生きている私からすると「擬態しませんか」という自虐をはらんだ誘いが非常に軟派というか……
なんやお前らお二人でキラキラしてるやんけ、と思ったしだいでした。
このシーンをはじめ、
桐生と佐々木のやりとりが、
それは(ごく普通の)恋なのでは…?と思うことがままあり、なんでこの人たちがそんなに気に病んでいるのか?極めて普通の、一般的な恋愛をしているように見えるし、彼らが自分たちを特別だと感じる切迫感が伝わってこなかったというのもあった。
だって彼らと比べたら私の、
40歳、独身、処女、一人暮らし、彼氏なし、恋愛経験なし、新興宗教2世の方がよほどヤバい。
彼らがいくら「私達は普通の人と違う(><)」とか病んでても、それならワシって一体…てなってしまった。
それに、そんな私だって割と楽しく暮らしてる。
私より大変な思いをしておられる人だってゴマンといるだろう。
そもそも人間、五体満足でしかも経済的に一人立ちなんてできたら御の字で、もうそれ以上のものなんてないと思う。
結婚、出産する人もいるかもしれないけど、人は人じゃん。
「私は、他の人と違ってる!」ってさ、
意外とみんなそう思って生きてるって。
そんなことを思った。
新垣結衣という女優
とまあストーリーのことはこのくらいにして、
他に特筆すべき点があるとすれば新垣結衣の好演だろう。
実は彼女の演技を見るのはドラゴン桜かギャルサー以来の話で、逃げ恥は見ていない。
取り立てて演技力に定評のある女優、と評されて出てきたわけではなかったと思ったが、
今作では作品のテーマ・コンセプトをよく理解して、世間に馴染めない孤独を抱えた女性の役を好演していたと思う。
特に、新垣結衣のスタイル・体型とかってこれまで気にしたことがなかったが(顔がかわいすぎるので体型まで見られない)、実は高身長だったのですね。(169センチらしい)
そして今風に言うなら典型的な骨格ナチュラルで、シルエットが若干エヴァンゲリオンぽい。
顔はもちろん、
スタイルまでもが非凡に美しい彼女は、まさに普通の人生じゃなく、芸能人としての道を歩むべくして歩んでいるワケだが。
この「非凡な美しいスタイル」で他より目立っている、というところが、
「普通じゃない」ことの悩みを抱えた人、という今作のテーマにマッチしていて、桐生夏月の役は新垣結衣にしかできないのだなと思った。
また、旧来ずっと日本を代表する美少女として、類を見ない美貌と愛らしさを兼ね備えたルックス一億点の人であるが、
表情やメイクでここまで垢抜けならぬ「垢付け」ができるものなのかとも感嘆した。
新垣結衣のイモ化に自信を得るのもおこがましいが、
しかし私自身においても、表情やメイクを頑張れば多少は良くなることもあるのかもしれないと思い直した。
ここのところ老けてきてやる気を失っていたので……
新垣結衣とは、いくら泥で隠して、暗い表情をさせてみても、やはり一瞬、ピカッと光ってしまう美貌がある。
それゆえにどこか画的に華やかさのある映画になっていた。
新垣結衣はこれでなんかの賞取りそう。
もしくは庵野秀明の次の映画のヒロインか。
新垣結衣がヒロインの庵野映画か〜見たすぎる。
そして佐藤寛太のかっこよさよ…
かっこよすぎる
諸橋くんにはキモって言われるかもしれないけど…
ダンスサークルのお姉さんも絶対諸橋くんのこと好きだったでしょ
こういう追いかけても振り向いてくれない男が好きな女いるよ
それにしても東野絢香さん演じる神戸さんは勇敢だった。
ハタチくらいのころの恋愛なんて普通イタいよね
インスタに他人のふりしてメッセージ送ったりさ、
そのくらいのことはやっちゃうよ…
ハタチなんてまだ大体子供なんだから
こういうイタい恋がバレてもさ、
ひるまないで、
好きな人の心が閉じてる!って、
糾弾できる勇敢さと優しさ…
彼女にはきっとこれからいい恋愛が待ってるね
いやぁ、私もけっこうしっかり心閉じて生きてるから、けっこうグサッと刺さりました。
神戸さんのセリフが。
稲垣吾郎の検事さんは、
「世間一般の正論」という悪の擬人化だったのかな、とかぼんやり思った。
でも、それにしたって、私だって子供が急に学校行かないでユーチューバーになる!とか突然言い出したら反対すると思う……子供いないけど
伴侶が別の異性を頼りにしてたら、面白くないと思うし…
つまりそんなおかしなこと言ってるわけじゃないのに、わからせられる分からず屋、みたいになっていたのがちょっとかわいそうだった
映画サイトのあらすじはこれであっているのか?
とまぁ、う〜〜〜〜んという思いで鑑賞したワケなのだが、
帰ってきて映画サイトのあらすじを読んで、更に
こんなだったか?と首をひねった。
そもそも「正欲」というタイトルは、
社会的に正しくありたい、疎外されたくない、という集団帰属意識と
個人の稀な性的な嗜好との間で起きる葛藤を描いたストーリーに対して冠せられたものだと思う。
しかし今作からは今の社会に対するするどい指摘、批判みたいのも感じなかったし、
私のように性的に珍しい経歴を持つ人間をはじめ、
内面に葛藤を抱える者へのエールとも、批判とも、情報提供とも取れなかった。
どちらかというと、ホリエモンとかひろゆきとか言論系のイキったタレントが繰り出すトンデモ仮定の論を聞かされているような不愉快さがあった。
ちなみにホリエモンとかひろゆきとかの言論系イキりタレントはけっこう好きでよく見てます。
しかし一方で、アイデンティティと性自認の関わりや、性欲と社会、などの
世間的にも扱いづらい、あまり語られてこなかったようなテーマを、形を崩さず、そのまま丁寧に切り取って、そっとお皿の上に乗せるような、繊細な技術力も感じた。さすが売れっ子作家ということなんだろうか。
原作の本を読んだらまた違う感想が出てくるのかな。
どうでもいいけどやっぱ男性作家の描く女ってなんかヘンだし、
同時に女性作家の描く男もものすごくヘンなんだよな…
異性像に違和感がない作家というと夏目漱石か三島由紀夫くらいだな、
とか思いながら帰りました。
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