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「告白したんだけど彼氏が居るって振られてさ、彼女バレンタインにお菓子作るって言うから試作の味見を申し出たんだ」 「おう」 「それが不味くて。無塩バター無くて、普通ので作ってみたって」 「試作で毒見。暗に避けられ?」 「無縁じゃない繋がりを感じて」 「そこ有塩を素直に取るなら涙味だよ」
「友達がバレンタインに告白したんよ」 「まあ!」 「手作り本命携えて女の子に」 「あら、まさかの女の子同士?」 「いいや、その友達は男の子だよ」 「それはそれで尊し」 「まあそうだけど、一切躊躇い無いお前の雑食的節操よ」 「元より思案の外たる懸想に節度を説く狂気の沙汰よ。ナンセンスな」
「女性が自分の名前をカードに記す。男性が籤の要領でカードを引く。巡り合った二人で過ごす」 「何その雑マッチング。乱暴だなあ」 「結婚と豊穣の神々に繁栄を願う祭の催しの一つだよ」 「あー、神様の加護で結ばれるんだ」 「それがまあ色々あってバレンタインデーに」 「色々、に滲む闇が濃いよ」
「バレンタインデー生まれって実際どうなん?」 「クリスマスのイエスの気分?」 「身内でもなきゃ当人置き去りか」 「まあネタにはなる星の下だな」 「誕生日プレゼントの体で本命チョコが潜んでたりとか」 「無い無い。あっても義理だよ。いや待てよ? おい、……嘘だと言ってくれ!」 「マジかよ」
「兎の居ない島の少年が身籠った雌兎を連れ帰ったらさ、島は空前絶後の兎ブーム。皆買ったり贈ったり」 「兎バブルだ」 「兎激増で島は飢饉に」 「侵略的外来種かよ。で、在来種いや先行外来種が危機に」 「島民は兎を駆除することにした」 「島民一座の命を懸けたコントだったの?」 「劇団兎座かー」
「ニホンノウサギってノウサギなんだって」 「そっちの『の』?!」 「他にもサバンナとかアラスカとかご当地ノウサギが居る」 「アマミノクロウサギは?」 「それはアマミノクロウサギ。化石種にはムカシウサギとかもいる」 「じゃあイナバノシロウサギは?」 「敢えて言うなら、……カミヨウサギ?」
「ある兎が行き倒れ老人の糧に自らを供したって」 「それ、兎が食べられなかったら無駄死にね」 「命より大切なものは無いって教わるじゃん」 「大切なのは誰の命か?」 「自分の命一つに囚われないとか?」 「洗脳詐欺の手口ね」 「なら誰の命一つにだって囚われない!」 「命から重さが消えたぞー」
「確かに鮫は欺いた。畑も荒らす。けど亀は接待するし、狸を泥船で沈めるのは仇討ち。身を焼べて老人の糧にもなる。趣味は餅搗きと月見て跳ねる無害さ。それが傷は海塩で治ると騙され、彼の山では追われ、跳べば木の根でころりよ。俺、そんな悪いか?」 「君の冬毛のように真っ白、とは言い難いかな」
こち、……こち、……こち、……こち。 寝付けない。 暗くした部屋、布団に包まって目を瞑り努める。 積もった雪にすっかりと喧噪を奪われてしまった外に、秒針は一層鋭さを増して時を刻む。 こち、……こち、……こち、……こち。 それは気のせいかゆっくり重々しく感じられた。 どれほど経っただろう。少なくとも一時間は過ぎているはずだ。 のっそり置時計を見遣る。 時間は、まるで進んでいない。 秒針は四十五秒に届かず滑り、重力に力なく溺れ、一秒前を繰り返し藻掻いていた。 雪に閉ざさ
「防音環境に興味があって」 「ピンキリで方法は色々あるね」 「ざあざあの雨がさ、密閉空間内だとぱらぱらに乾いて聞こえるじゃん?」 「その程度なら何とかなるでしょ」 「ただ一つ条件がね」 「何ね」 「着れるの無いかな?」 「何に使うの?」 「腹の虫に被せたい」 「密閉されてなお響くあれな」
「へー、加振酒なんてあんの」 「耳無きものの栽培や発酵、熟成を楽曲で調えるんだ」 「なら俺も、加振で眠れる才能が開花しちゃえる?!」 「好きな曲に魘されて、震えて眠る覚悟だけあれば」 「あっ、加振技術が想定してない聴覚が先に音を上げちゃう感じ?」 「ようこそ耳地獄へ」 「それが本音か」
「くそう、くそう! またあいつに負けた。今度こそ、今度こそって思ったのに」 「あー」 「だが次こそ汚名挽回を果たし」 「それは今果たしてる」 「名誉返上するのだ!」 「まず返上できるタイトルがさ。ところで次は何で挑むの?」 「クイズ。脳筋の奴めに思い知らせてやる!」 「雪辱は遠いかな」