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「なんか凄いお風呂があるらしいんだけど」 「ほう」 「インフィニティ・プールって云うんだって」 「知らない。何それ?」 「私も分かんない。それがこれからやるんだって」 「へー、どんなだろう。……あ、シーエム」 「ああもう!」 「焦らしてくるね」 「余計気になるやつ」 「じゃあシーエム明けるまで、どんなのか予想してみる?」 「うん」 「無限のお風呂なんだよね?」 「そうみたい。これからやるのは温泉って話」 「じゃああれだ、とんでもなく湯船が広い。無辺の
「今日ね、不思議な男の子に会ったの」 「どんな子?」 「冬でござんすって」 「その子なら父さんも小さい頃に遊んだよ」 「あの子のお家はどこにあるの?」 「北風の彼方に国があるって云うけれど」 「じゃあ今度訊いてみるね」 「なら風邪引かないようににんじん頑張ろうか」 「……これ一個は食べる」
「何読んでるの?」 「見出し読み上げるから当ててみ?」 「よし来た」 「吠える四十度」 「息を吐くのは分かるけど、吠えたことはないなあ」 「狂う五十度」 「それなら分かる。我慢しちゃだめだ」 「絶叫する六十度」 「いやだから早く出よう? 火傷しちゃうよ」 「何の話してる?」 「お風呂じゃないの? サウナや体温じゃなさそうだし」 「残念」 「じゃあ、マイナスの温度?」 「外れ」 「んー、じゃあお酒の度数とか、ワンチャン斜面の傾斜度かな?」 「お酒飲
微睡みをざらと舐め取る小さな舌。そして頬擦り。 休日だというのにお構いなし。 仔猫の柏は朝食の時間なのだ。 柏餅に因んで名を柏。 草色のタオルに隠れる白い毛玉がそう見えた。 もう少し眠気に身を委ねてこのおねだりを見守っていたくもあるが、意地悪はかわいそうだ。この子は腹を空かせている。 傍らの小さな命は、誰かに頼らねば糧を得ることも儘ならない。 ひと撫でして頬擦りを返したら、大きく伸びをしながら欠伸を一つ。 さあ朝食の準備だ。 催促に行こう。きっとまだ眠っているだろう主の
「これ一滴何グラム?」 「確か水なら――」 滴定の実験に飽きたぼやきにも、あいつは気さくに答えてくれた。 何でも知ってそうな顔してるけど、私の気持ちなんか一ミリも知らない。 零れる度に谺する「六十ミリグラム」。 あいつに恋人がいるなんて知らなかった。 涙一粒の重さなんて知りたくなかった。 1滴の重さは何gか、1滴の体積は何mLかを計算する根拠と方法
「これから六十日、夜が続くんです」 「長っ。こっちは十二時間位だよ」 「比べてここは無茶苦茶ですね。太陽笑うし戻るし増える」 「違う星に住む私達のどっちの時計にも、ここは縛られてないわけね」 「なら、今この時を刻んでいるのは僕達だけと」 「ねえそれ口説いてる?」 「そう聞こえました?」