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現代語で楽しむジェイムズ・ジョイス『小さな雲』【ダブリン市民 第8話】解説: 知られざるジョイスの壮絶人生!

小さな雲 

(『ダブリン市民』第8話)

ジェイムズ・ジョイス著


8年前、彼はノースウォール(ダブリンの港)で友人を見送り、成功を祈った。

その友人ガラハーは、大成功を収めたのだった。

彼の旅慣れた雰囲気、仕立ての良いツイードのスーツ、堂々とした話し方を見れば一目で分かる。

そんな才能を持っている人間はそう多くないし、成功してもそれで天狗にならないのはもっと少ない。

ガラハーは本当にいいやつで、成功にふさわしい男だった。

そんな友人がいるなんて、ちょっと誇らしい気持ちだ。

リトル・チャンドラーは、昼食を終えてからずっとガラハーとの再会のことを考えていた。

ガラハーからの誘い、そして彼が住む大都会ロンドンのことだ。

チャンドラーが「リトル」という冠詞付きで呼ばれていたのは、実際のところ平均よりほんの少し背が低いだけだったが、全体的に小柄な印象を与えるからだった。

彼の手は白くて小さく、体も華奢で、声は控えめ、そしてとても上品な立ち振る舞いをしていた。

淡い金髪の髪や口ひげには細心の注意を払い、ハンカチには控えめに香水をつけていた。

爪の半月(爪の根元の白い部分)は完璧で、笑うと子供のように真っ白な歯が見えた。

彼はキングズ・インズ(ダブリンの法学学校)の自分の机に座りながら、8年間の変化を振り返っていた。

かつての友人は、ボロをまとい苦しい生活をしていたはずなのに、今やロンドンの新聞界で輝かしい存在になっていたのだ。

彼はうんざりする書類仕事から何度も目を離し、オフィスの窓の外をぼんやり眺めた。

秋の終わりを告げる夕日の光が、芝生や小道に温かく降り注いでいた。

疲れた看護婦やうとうとしている年老いた男たちの上に、優しい金色の光が降りかかり、砂利道を駆け回る子供たちや庭を通り過ぎる人々の姿にちらちらと輝きを与えていた。

その光景を見ながら、彼は人生について考えた。

そして(人生について考えるといつもそうだが)悲しくなった。

穏やかな憂鬱が彼を包み込み、運命に逆らうことの無力さを強く感じた。

それが彼にとって、長い年月を生きて得た知恵の重荷だったのだ。

彼は家の本棚に並んでいる詩集を思い出した。

独身時代に買ったもので、結婚後の夜、廊下脇の小さな部屋で過ごしていると、何度もその詩集を手に取り、妻に朗読したいと思うことがあった。

だが、どうしても恥ずかしくてできなかった。

だから、詩集はずっと本棚に置かれたままだった。

時々、自分で詩の一節をそっと繰り返してみることがあり、それが彼にとっての慰めだった。


仕事が終わる時間になると、彼は立ち上がり、同僚たちに礼儀正しく別れを告げ、机を離れた。

彼はキングズ・インズの古風なアーチの下を抜け、小柄で控えめな姿で、ヘンリエッタ・ストリートを素早く歩き出した。

夕日の黄金色が薄れ、空気は冷たくなっていた。

汚い子供たちが通りにあふれていた。

子供たちは道に立ったり走ったり、開いたドアの前で階段を這い上ったり、玄関先でネズミのようにしゃがんでいた。

リトル・チャンドラーはそんな子供たちに目もくれず、彼らを巧みに避けながら、かつてダブリンの貴族たちが賑やかに過ごした、今は陰鬱な幽霊のような屋敷の影の中を通り抜けた。

過去の記憶は彼を何も揺さぶらなかった。

今は、ただ目の前の喜びで心がいっぱいだった。


彼は「コーレス」という場所に行ったことは一度もなかったが、その名前の価値はよく知っていた。

劇場の後に人々がそこに行って、カキを食べ、リキュールを飲むという話を聞いたことがあったし、そこのウェイターたちはフランス語やドイツ語を話すとも聞いたことがあった。

夜、彼が素早くその店の前を通り過ぎると、入口には馬車が並び、豪華なドレスに身を包んだ女性たちが、紳士にエスコートされて素早く店内に入っていくのが見えた。

彼女たちは目立つほど派手なドレスや多くのショールをまとい、顔には白粉を塗っていた。

地面に足がつくと、アタランタ(ギリシャ神話の速く走る女性)のように驚いたようにドレスを持ち上げる姿も見えた。

彼はいつも、彼女たちを見ようともせずに通り過ぎた。

昼間でも通りを歩くときには早足が習慣であり、夜遅くに街にいるときは、不安と興奮の中でいつも急いで歩いていた。

しかし時には、自分が恐れる原因をわざと追いかけることもあった。

一番暗くて狭い通りを選び、堂々と歩き進めるが、自分の足音が広がる静けさが彼を不安にさせた。

さまよい歩く無言の人影が彼を不安にさせたのだ。

そして、時折聞こえるかすかな逃げるような笑い声に、彼は木の葉のように震えた。


彼は右に曲がり、キャペル・ストリートに向かった。

ロンドンの新聞社で働いているイグナティウス・ガラハー!

8年前、そんなことがあるなんて誰が思っただろうか?

しかし今、過去を振り返ってみると、リトル・チャンドラーは、友人に将来の成功を予感させるような多くの兆しがあったことを思い出した。

当時、人々はイグナティウス・ガラハーのことを「ヤンチャ」だと言っていた。

もちろん、彼はその頃、派手な連中と付き合っていたし、酒もたくさん飲み、お金をあちこちから借りていた。

結局、彼は怪しげな金銭取引に巻き込まれたらしい。それが彼が逃げた理由の一つだという噂もあった。

だが、誰も彼の才能を否定しなかった。

イグナティウス・ガラハーには、何か独特なものがあって、思わず感心させられる何かがあった。

お金に困り果て、着るものもボロボロだった頃ですら、彼はいつも堂々としていたのだ。

リトル・チャンドラーは、イグナティウス・ガラハーが困った状況にいるときによく言っていた言葉を思い出し、それがちょっとした誇りとなり、彼の頬に赤みをさした。

「前半終了、みんな!」とガラハーはいつも陽気に言っていた。

「考える帽子はどこだ?」(※何かを真剣に考えるふりをする際の軽いジョーク。慣用句)


これがガラハーの特徴だった。

そして、どうしてもそんな彼に感心せざるを得なかった。


リトル・チャンドラーは歩く速度を速めた。

生まれて初めて、自分が通り過ぎる人々よりも優れていると感じた。

初めて、彼の魂がキャペル・ストリートの無味乾燥で洗練されていない雰囲気に対して反発した。

間違いない。成功したいなら、ダブリンを離れるしかない。

ダブリンでは何もできないのだ。

彼はグラタン橋を渡りながら、川下にある港を眺め、貧しくみすぼらしい家々を哀れんだ。

それらの家々は、夕焼けの光景に圧倒され、ほこりとすすに覆われた古いコートをまとった放浪者たちが、川岸に集まって座り込んでいるように見えた。

彼らは夜の冷たい風が吹き始めるまで、ただぼんやりと待っているだけのようだった。

チャンドラーは、このイメージを詩に表現できるかどうか考えた。

もしかしたらガラハーがそれをロンドンの新聞に載せてくれるかもしれない。

何か独創的な詩が書けるだろうか?

彼は自分が何を表現したいのかはっきりしていなかったが、詩的な瞬間が自分を捉えたという考えが、かすかな希望のように心の中で芽生え始めた。

彼は勇敢に歩みを進めた。

一歩一歩進むたびに、ロンドンに近づき、自分の地味で無芸な生活から遠ざかっていくような気がした。

彼の心の地平線には、一筋の光が揺らめき始めた。

彼はまだ32歳で、年老いているわけではない。

彼の気質は、ちょうど成熟期に差し掛かったところかもしれない。

彼が詩に表現したいさまざまな感情や印象が、心の中にたくさんあった。

それが感じられたのだ。

彼は自分の魂が詩人の魂かどうか、確かめようとした。

自分の気質の中で一番強い要素は「憂鬱」だと感じた。

ただ、その憂鬱は、時折やってくる信仰や諦念、そして素朴な喜びによって和らげられていた。

もしそれを詩集に表現できれば、人々は耳を傾けてくれるかもしれない。

彼が大衆の人気者になることは絶対にないだろう。そう感じていた。

だが大勢の人を魅了することはできなくても、自分と同じ感覚を持つ少数の仲間には訴えかけられるかもしれない。

もしかすると、イギリスの批評家たちは、彼の詩のメランコリックな調子を理由に、彼をケルト派の一員として認めてくれるかもしれない。

さらに、詩の中にそれとなく引用を入れることだってできる。

彼は、自分の本が批評されたときに載るであろう文句を思い描き始めた。

「チャンドラー氏は、軽やかで優雅な詩の才能を持っている」...

「これらの詩には、切ない悲しみが漂っている」...

「ケルト的な響き」...

ただ、残念なのは、自分の名前がもっとアイルランドらしかったらよかったのに、ということだ。

母親の姓を名字の前に入れるのがいいかもしれない。

トーマス・マローン・チャンドラーとか、いや、もっといいのはT・マローン・チャンドラーだな。

そのことをガラハーに相談してみよう。

そんなことを夢中で考えていたら、自分の通りを通り過ぎてしまい、引き返さなければならなかった。

「コーレス」に近づくにつれて、彼の以前の不安が再び彼を支配し始め、彼はドアの前で立ち止まってしまった。

最終的には、意を決してドアを開け、中に入った。


バーの明るさと騒音に、一瞬、入口で立ち止まってしまった。

彼は周囲を見渡したが、赤や緑の輝くワイングラスで視界がぼやけていた。

バーは人でいっぱいのように見え、彼は人々が自分を興味深そうに観察しているように感じた。

彼はすぐに左右をちらりと見渡し(少し眉をひそめて、用事があるように見せようとした)、

しかし視界が少しクリアになると、誰も彼に注目していないことに気づいた。

そして、間違いなくそこには、イグナティウス・ガラハーがカウンターにもたれかかり、足を広げて立っていたのだった。

「おお、トミー! お前も来たのか!

どうする? 何を飲む?

俺はウィスキーだ。こっちのウィスキーの方が海を越えてくるのよりずっといい。

ソーダか? リチアか?

ミネラルウォーターはなし? 俺もだ。

あれは味を台無しにするからな…。

おい、ガルソン、モルトウィスキーをハーフで二つ、頼むよ…

それで、最近どうしてた? 久しぶりだよな。

神様、年取ったなぁ! 俺も老けた感じするか? どうだ?

少し白髪と薄毛が増えたかって?」

イグナティウス・ガラハーは帽子を取って、短く刈られた大きな頭を見せた。

彼の顔は重たく、青白く、ひげは剃り上げられていた。

青みがかったスレート色の目が、彼の不健康そうな顔色を和らげており、鮮やかなオレンジ色のネクタイの上で目立っていた。

その対照的な目とネクタイの間に、長くて形のない色の薄い唇があった。

ガラハーは頭を傾け、二本の指で優しく頭頂部の薄い髪を触った。

リトル・チャンドラーは首を振って否定した。

ガラハーは再び帽子をかぶった。

「仕事ってのはやっぱり消耗するよな」と彼は言った。

「新聞の仕事って、常に急かされてばかりで、ネタを探すのにバタバタして、時には何も見つからないこともあるし。

それに、いつも新しい内容を求められる。

だから、しばらくは校正や印刷のことなんか、もうどうにでもなれって感じだ。

こうして、古い故郷に戻ってこれたのは本当にうれしい。

やっぱり休暇は必要だよな。

俺もダブリンに戻ってから、ずいぶん元気になったよ。

さあ、トミー。水はどうする? 好きなところで言ってくれ」

リトル・チャンドラーはウィスキーをかなり薄めにしてもらった。

「お前は何が美味いか分かってないな、坊や」とガラハーは笑いながら言った。

「俺はストレートで飲むんだ」


「僕は普段あまり飲まないんだ」とリトル・チャンドラーは控えめに答えた。

「たまに昔の仲間と会ったときに、ちょっと飲むくらいさ。それだけだよ」

「まあいいじゃないか」とガラハーは陽気に言った。

「じゃあ、俺たちの健康と昔の仲間たちに乾杯だ」

二人はグラスを合わせ、乾杯した。

「今日、昔の連中に何人か会ったよ」とガラハーが言った。

「オハラはだいぶまずい状況みたいだな。今、何してるんだ?」

「何もしてないよ」とリトル・チャンドラーは答えた。

「もうだめになってる」

「でもホーガンはいい仕事に就いてるんだろ?」

「ああ、土地委員会で働いてるよ」

「ロンドンで一度彼に会ったけど、そのときはすごく金回りがよさそうだったよ。

でも、オハラはかわいそうに。酒のせいか?」

「それ以外のこともある」とリトル・チャンドラーは短く答えた。

ガラハーは笑った。

「トミー、お前は全然変わってないな」とガラハーは言った。

「昔、俺が二日酔いで頭が痛い日曜日の朝に、お前が俺に説教してたころと全く同じだよ」

「世界を少しは見て回った方がいいぞ。

旅行とか行ったことあるのか?」とガラハーが尋ねた。

「マン島に行ったことがあるよ」とリトル・チャンドラーが答えた。

イグナティウス・ガラハーは笑った。

「マン島だって?」と彼は言った。

「ロンドンやパリに行けよ。パリが特にいい。お前にも絶対いい影響があるさ」

「パリに行ったことがあるの?」とリトル・チャンドラーが尋ねた。

「そりゃあるさ! ちょっとそこら辺をウロウロしてたよ」

「本当にそんなにきれいな場所なのか?」とリトル・チャンドラーがさらに聞いた。

彼は少しウィスキーを飲みながら、イグナティウス・ガラハーが勢いよくグラスを空にするのを見ていた。

「きれいか、だって?」とガラハーは、その言葉とウィスキーの味わいをかみしめるように繰り返した。

「そりゃあもちろん、きれいさ。でもね、本当に大事なのはパリの“生き方”なんだ。

ああ、パリほど楽しくて、活気にあふれて、ワクワクする街は他にないよ」

リトル・チャンドラーはウィスキーを飲み終え、バーテンダーの視線をやっとのことで捉え、同じものをもう一杯注文した。

「ムーラン・ルージュにも行ったことがあるし、ボヘミアンなカフェにも全部行ったよ」とガラハーはバーテンダーがグラスを片付けた後に話し続けた。

「かなり刺激的だったな! だけど、お前みたいな真面目なやつにはちょっとハードかもな、トミー」

リトル・チャンドラーはバーテンダーが二杯目のウィスキーを持ってくるまで何も言わなかった。

グラスが届くと、彼は軽く友人のグラスに触れ、さっきの乾杯を繰り返した。

彼は少し失望し始めていた。

ガラハーの話し方や表現がどうも気に入らなかったのだ。

そこには、彼が以前気づかなかった下品さがあった。

でも、それはロンドンでの慌ただしい生活や、新聞社での競争の中で身につけたものかもしれない。

昔の個人的な魅力は、その派手な態度の下にまだ残っている。

そして何よりも、ガラハーは世界を見てきたし、人生を楽しんできたのだ。

リトル・チャンドラーは友人を羨ましげに見つめた。

「パリは何もかもが楽しいんだ」とガラハーは続けた。

「連中は人生を楽しむことを信じているんだよ。お前もそう思わないか?

もし本当に楽しみたいなら、パリに行くしかないぞ。

それに、あいつらはアイルランド人にすごく好意的なんだ。

俺がアイルランドから来たって分かると、みんな大喜びで話しかけてきたんだぜ、ほんとに」

リトル・チャンドラーはグラスから4、5口飲んだ。

「教えてくれよ」と彼は言った。「パリって本当に…そんなに不道徳な場所なのか?」

イグナティウス・ガラハーは右腕で大げさなジェスチャーをしながら言った。

「どこだって不道徳だよ。

もちろん、パリにはちょっと刺激的なところもあるけどな。

例えば学生たちの舞踏会に行ってみろ。

盛り上がるぞ、ココットたちが羽目を外し始めたらな。

彼女たちが何者か知ってるだろ?」

「名前は聞いたことがある」とリトル・チャンドラーは答えた。

ガラハーはウィスキーを飲み干し、首を振った。

「まあ、何と言おうと、パリの女性ほどスタイルをもってて、活気のある女はいないよ」

「じゃあやっぱり、不道徳な街なんだね」とリトル・チャンドラーはおずおずと確認した。

「ロンドンやダブリンと比べてどうなんだ?」

「ロンドンだって?」とガラハーは笑った。

「どっちもどっちだな。ホーガンに聞いてみろよ、坊や。俺がロンドンのちょっとした遊び方を教えてやったんだ。

目からウロコだぜ…

トミー、ウィスキーを薄めるんじゃない。もうちょっと飲めよ」


「いや、本当にもう…」


「いいからさ、もう一杯くらいどうってことないさ。どうする? 同じやつでいいんだろ?」

「まあ…分かったよ」

「フランソワ、同じやつで頼むよ…。

トミー、葉巻はどうだ?」

イグナティウス・ガラハーは葉巻ケースを取り出した。

二人は葉巻に火をつけ、静かに煙をくゆらせながら、飲み物が運ばれてくるのを待った。

「俺の意見を言うとだな」とガラハーはしばらく煙の中に隠れていた後、ようやく話し始めた。「世の中ってのはほんとに変なもんだよ。

不道徳なんて話じゃない。俺なんか、もういろんなケースを見てきたよ、っていうか、知ってるんだよ、そういう不道徳な話をな…」

ガラハーは考え込むように葉巻をふかし、それから冷静な歴史家のような口調で、海外での腐敗の数々をリトル・チャンドラーに語り始めた。

彼はいくつもの首都の悪徳を要約し、その中でも特にベルリンが優れているように思えると言った。

彼は自分で確証が持てない話(友人から聞いたもの)もあったが、個人的に経験したこともあった。

身分も階級も容赦せずに、彼はヨーロッパ大陸にある宗教施設の秘密や、上流社会で流行している習慣を暴露した。

そして最後に、あるイギリスの公爵夫人についての真実だと確信している話を詳しく語り終えた。

リトル・チャンドラーは驚愕した。

「まあ、こうして俺たちは、そういうことがまったく知られていないのんびりしたダブリンにいるわけだ」とガラハーは言った。

「今までいろんな場所を見てきた君からしたら、退屈に感じるだろうね」とリトル・チャンドラーが言った。

「いや、それがな」とガラハーは答えた。「ここに来るとリラックスできるんだよ。

それに、なんだかんだ言っても故郷だしな。

どこかしら愛着が湧くもんさ。人間ってそういうもんだろ。

でも、君のことも聞かせてくれよ。ホーガンから聞いたんだが…

結婚生活の喜びを味わってるんだって? 二年前だったっけ?」

リトル・チャンドラーは顔を赤らめ、微笑んだ。

「そうだよ」と彼は答えた。「去年の5月に結婚したんだ」

「ちょっと遅くなったが、お祝いを言わせてもらうよ」とガラハーは言った。

「君の住所がわかってたら、もっと早く伝えていたんだけどな」

彼は手を差し出し、リトル・チャンドラーはそれを握った。

「まあ、トミー、君と家族が幸せに暮らせることを祈ってるよ、親友としてね。

お金もいっぱい手に入れて、俺がお前を撃つまで死ぬなよ。

これは本物の友情からの願いだ。昔からの友人としてのな。分かってるよな?」

「分かってるよ」とリトル・チャンドラーは答えた。

「子供はいるのか?」とガラハーが聞いた。

リトル・チャンドラーは再び顔を赤らめた。

「一人いるんだ」と彼は答えた。

「男の子? 女の子?」

「小さな男の子さ」

ガラハーは大きな音を立てて友人の背中を叩いた。

「いいねえ!」と彼は言った。「やっぱり、君はやってくれると思ってたよ、トミー」

リトル・チャンドラーは微笑んでグラスを見つめ、困惑しながら唇をかみしめた。

その前歯は、子供のように真っ白だった。

「出発前に、ぜひ家に来てくれよ」とリトル・チャンドラーは言った。

「うちの妻も君に会うのを楽しみにしているだろうし、音楽でも楽しんで…」

「本当にありがとう、親友」とイグナティウス・ガラハーは答えた。

「もっと早く会えればよかったんだが、明日の夜にはもう出発しなきゃならないんだ」

「じゃあ、今夜はどうかな…?」

「ごめんな、実は今夜は別の友人と一緒でさ。そいつもかなり頭のいいやつで、ちょっとしたカードパーティーに行く約束をしてるんだよ。それがなければ…」

「そういうことなら仕方ないね…」

「でも、次の機会があるって」とガラハーは気遣うように言った。

「今回でダブリンに慣れたから、来年またちょっと来るかもしれないよ。楽しみは先延ばしってやつさ」

「そうだね」とリトル・チャンドラーは答えた。

「次に来たときは、ぜひ一緒に夜を過ごそう。約束だよね?」

「もちろん、約束だ」とガラハーは答えた。

「来年もし来るなら、**パロール・ドヌール**(名誉をかけた約束)だ」

「じゃあ、その約束を固めるために、もう一杯やろう」とリトル・チャンドラーが提案した。

イグナティウス・ガラハーは大きな金の懐中時計を取り出して、時間を確認した。

「これが最後になるんだな?」

「なにせ、俺にはアポイントがあるからな」

「そう、これが本当に最後の一杯だよ」とリトル・チャンドラーは答えた。

「じゃあ、もう一杯やろうか。**デオカン・ドリス**、これが小さなウィスキーを指す良い言葉らしいぞ」とガラハーは笑った。

リトル・チャンドラーはドリンクを注文した。

彼の顔に浮かんでいた赤みはますます強くなっていた。

ちょっとしたことで彼はすぐに赤面するタイプだったが、今は気分が高揚し、興奮していた。

ウィスキーを3杯飲んだことで、彼の頭はふらふらし始めていたし、ガラハーの強い葉巻も彼の心を混乱させていた。

彼は繊細で、普段はお酒を控えていたのだ。

8年ぶりにガラハーと会い、コーレスの明るさと賑わいの中でガラハーの話を聞き、その一瞬、ガラハーの冒険的で成功した人生の一部を共有していることが、彼の感受性豊かな性格を大いに揺さぶっていた。

彼は、自分の人生と友人の人生との対比を強く感じ、それが不公平だと思えた。

ガラハーは出自も教育も自分より劣っているはずだ。

自分だって、ガラハーが今まで成し遂げたことよりも、いや、彼がこれからやることよりも、もっと立派なことができるはずだと確信していた。ただ、そのチャンスさえあれば。

何が自分の邪魔をしているのだろう?

それは、不幸にも自分に染みついている臆病さだった。

彼は自分をどうにかして正当化し、男らしさを証明したいと思った。

ガラハーが自分の招待を断った裏には何かがあると感じていた。

ガラハーは親しげに接してくれてはいるが、結局は自分を見下しているのだ。ちょうど、今回の訪問で彼がアイルランドを軽く扱っているのと同じように。

バーテンダーが飲み物を持ってきた。

リトル・チャンドラーは一杯を友人に押しやり、もう一杯を勢いよく手に取った。

「誰にもわからないさ」と彼はグラスを持ち上げながら言った。

「来年また来たときには、『イグナティウス・ガラハー夫妻の長寿と幸せを祈って』と言う機会があるかもしれないよ」

イグナティウス・ガラハーはグラスの縁越しに片目をつぶって見せながら飲んだ。

飲み干すと唇を音を立てて鳴らし、グラスを置いて断固たる口調で言った。

「それは絶対ないな、坊や。

まずは遊び尽くして、人生と世界を少しは見て回らないと、結婚なんて考えられないよ。もしそんな日が来るなら、だけどな」

「いつかその日が来るさ」とリトル・チャンドラーは冷静に言った。

ガラハーは鮮やかなオレンジのネクタイと青みがかったスレート色の目を、じっと友人に向けた。

「そう思うのか?」と彼は言った。

「君だって、結局は結婚するさ」とリトル・チャンドラーは強い口調で繰り返した。「みんなそうだよ、ぴったりの女性に出会えればね」

彼は少し語気を強めた自分に気づき、感情を抑え損ねたと悟ったが、頬が赤くなっても、友人の視線から目をそらさなかった。

イグナティウス・ガラハーはしばらく彼を見つめた後、こう言った。

「もしそんな日が来るとしても、ロマンチックな夢なんて持たないことは確かだ。

俺は金のある女と結婚するつもりだよ。銀行にたっぷり預金がないと、俺の相手にはならない」

リトル・チャンドラーは首を振った。

「おい、お前、分かってんのか?」とイグナティウス・ガラハーは激しく言った。

「俺が一言言えば、明日には女も金も手に入るんだぜ。信じられないか? でも、俺は分かってるんだ。

金を腐るほど持ってるドイツ人やユダヤ人が何百人、いや何千人もいて、喜んで俺に…

ちょっと待ってな、坊や。俺がどうやって上手くやるか見てみろよ。

俺が何かに手を出すときは、本気だってことだ。しっかり見とけ」

彼はグラスを口に運び、一気に飲み干して、大声で笑った。

それから前を見つめ、少し冷静な声で言った。

「でも、急いでるわけじゃない。向こうは待てばいいさ。

俺は一人の女に縛られる気なんてないんだよ」

彼は口をすぼめて、味わう仕草をしながらしかめっ面をした。

「きっと飽きるだろうな」と彼は言った。

帰宅後、リトル・チャンドラーは廊下の横にある部屋で、子供を腕に抱いて座っていた。

節約のため、彼らは家に使用人を置いていなかったが、アニーの妹のモニカが、朝と夕方に1時間ほど手伝いに来ていた。

でも、モニカはとっくに帰っていた。

時刻は9時15分前だった。

リトル・チャンドラーはお茶の時間に遅れて帰宅した上に、アニーに頼まれていたビューレーズのコーヒーを買って帰るのを忘れてしまった。

当然、彼女は不機嫌で、返事もそっけなかった。

「お茶なしでもいいわ」と言っていたが、角の店が閉まる時間が近づいてくると、自分で出かけて1/4ポンドのお茶と2ポンドの砂糖を買ってくることにした。

彼女は眠っている子供を器用に彼の腕に乗せて言った。

「はい。起こさないでね」

白い陶器のシェードがついた小さなランプがテーブルの上にあり、その光が額に入った写真を照らしていた。それはアニーの写真だった。

リトル・チャンドラーはその写真を見つめ、彼女の細くきつく引き締まった唇に目を止めた。

彼女が着ていたのは、彼がある土曜日にプレゼントした、淡い青色の夏のブラウスだった。

それは10シリング11ペンスもしたものだ。

だが、それを買うまでにどれほど神経をすり減らしたことか!

あの日、彼がどれほど苦しんだことか。

店のドアの前で、店内が空くのを待ち、カウンターに立って、何とか落ち着いているふりをしながら、店員の女の子がレディースのブラウスを山のように積み上げるのを見ていた。

レジで支払いをした後、お釣りの1ペニーを受け取るのを忘れてしまい、キャッシャーに呼び戻され、最後には、店を出る際に顔の赤みを隠そうと、荷物の結び目がちゃんとできているか確認するふりをしながら出ていったのだ。

彼がそのブラウスを家に持ち帰ると、アニーは彼にキスをし、「とても可愛くておしゃれね」と言った。

しかし、値段を聞くと、ブラウスをテーブルに放り投げ、「10シリング11ペンスも取るなんて、ぼったくりだわ」と言った。

最初は返品したいと言っていたが、試しに着てみると、とても気に入り、とりわけ袖のデザインに満足して、再び彼にキスをして、「あなたは本当に私のことをよく考えてくれてるわ」と言ったのだった。

ふん…。

彼は写真の冷たい目をじっと見つめ、写真も冷たく応えた。

確かに、その目は美しく、顔全体も綺麗だった。

しかし、彼はその中に卑しさを感じた。

なぜこんなにも無意識で、上品ぶっているのだろう?

その穏やかな目つきが彼を苛立たせた。

その目は彼を拒絶し、挑んでいるかのようだった。

そこには情熱も、喜びもなかった。

彼はガラハーが言っていた「お金持ちのユダヤ人女性」の話を思い出した。

あの暗い東洋の瞳は、彼の想像の中で、情熱と官能的な欲望に満ちていた。

――なぜ、彼はこの写真の目と結婚してしまったのだろう?

その問いに気づいた瞬間、彼はハッとして、部屋を緊張しながら見渡した。

彼は、家具にも卑しさを感じた。それは、家をローンで購入したときに自分が買ったものだった。

家具はアニーが選んだもので、家具は彼女を思い出させた。

家具もまた、上品で可愛らしかった。

彼の中に、退屈な人生への鈍い反感が芽生え始めた。

この小さな家から逃れることはできないのだろうか?

ガラハーのように勇敢に生きるには、もう遅すぎたのか?

ロンドンに行けるのだろうか?

家具の支払いもまだ残っている。

もし本を書いて出版できたら、道が開けるかもしれないのに…。

バイロンの詩集がテーブルの上に置かれていた。

彼は子供を起こさないように、左手で慎重に本を開き、最初の詩を読み始めた。

「風は静まり、夕暮れはまだ暗く、ゼファーすら森をさまよわない。マーガレットの墓に戻り、愛する塵に花を撒き散らす」

彼は一旦読みを止めた。

詩のリズムが部屋の中に漂っているように感じた。

なんて物悲しい詩なのだろう!

自分にもこんなふうに、心の中の悲しみを詩に表現できるだろうか?

彼には表現したいことがたくさんあった。

例えば、グラタン橋で感じたあの感覚も…。

もしまた、あの時の気分に戻れたら…。

その時、子供が目を覚まし、泣き始めた。

彼は本から目を離し、子供をあやそうとしたが、泣き止まなかった。

腕の中で子供を前後に揺らし始めたが、泣き声はますます鋭くなっていった。

彼はさらに早く揺らしながら、再び詩の第二節を読み始めた。

「この狭い部屋に眠る彼女の遺骸、その遺骸はかつて…」

無駄だった。

読めない。

何もできない。

子供の泣き声が耳の鼓膜を突き刺した。

無駄だ、無駄なんだ! 彼は一生このまま囚われの身なのだ。

怒りに震える腕で子供の顔に身を屈め、突然大声で叫んだ。

「泣くな!」

子供は一瞬泣き止み、恐怖で身体を震わせたかと思うと、また叫び声を上げて泣き出した。

彼は椅子から飛び上がり、子供を抱えたまま急いで部屋の中を行ったり来たりした。

子供は息を詰まらせるように哀れなすすり泣きを始め、4、5秒間息を止めた後、再び泣き叫び始めた。

薄い壁がその音を反響させた。

彼は子供をなだめようとしたが、子供はさらに激しく痙攣するように泣き続けた。

彼は震える子供の顔を見て、次第に不安になってきた。

彼は息を止めずに7回も続けて泣き声を数え、恐怖で子供を胸に引き寄せた。

もし死んでしまったら…!

その時、ドアが勢いよく開き、若い女性が息を切らして駆け込んできた。

「どうしたの? 何があったの?」と彼女は叫んだ。

子供は母親の声を聞くと、さらに激しく泣き出した。

「大丈夫だよ、アニー…

なんでもないんだ…

ただ、泣き始めちゃったんだ…」

彼女は持っていた荷物を床に投げ捨て、子供を彼の腕から引き取った。

「何をしたの!?」と彼女は彼の顔を睨みつけながら叫んだ。

リトル・チャンドラーは彼女の目を一瞬だけ見つめ、その中にある憎しみを感じた瞬間、心がぎゅっと締めつけられた。

彼は口ごもりながら言った。

「なんでもないんだよ…

ただ…泣き始めちゃって…

僕は何も…何もしてないんだ…

本当に…」

彼女は彼の言葉には耳を貸さず、部屋の中を歩き回りながら、子供をしっかりと抱きしめて優しくささやいた。

「私の可愛い子! ママの大事な子、怖かったのね?

もう大丈夫よ、愛しい子。

ほら、よしよし…

ラムちゃん! ママの世界で一番の可愛い子羊ちゃん!

もう泣かないで」

リトル・チャンドラーは恥ずかしさで顔が赤くなり、ランプの光が届かない場所へと後ずさりした。

子供の泣き声が少しずつ収まっていくのを聞きながら、彼の目には後悔の涙が浮かんだ。


終わり


解説(という名目のChatGPT-4との雑談)


(私): なんで「小さな雲」ってタイトルなの?

(ChatGPT-4): 「小さな雲(A Little Cloud)」というタイトルには、いくつかの象徴的な意味が込められています。ジョイスはしばしば象徴やメタファーを使って登場人物の内面を描写する作家です。このタイトルも、物語のテーマやリトル・チャンドラーというキャラクターの心情に深く結びついていると考えられます。

1. リトル・チャンドラーの名前との関連

「リトル・チャンドラー」という名前が「小さな雲」というタイトルに繋がっています。リトル・チャンドラーは、物語の主人公で、彼の「小ささ」や「曇り」を象徴しているといえます。彼は自身の人生に満足しておらず、友人ガラハーとの再会で自分の限界や不満を強く感じます。彼の人生は希望や夢に向かって開かれているように見えますが、実際には家庭や責任に縛られている。それが「小さな雲」のように、どこか曖昧で、消えてしまいそうな存在を示唆しているのです。

2. 希望と現実のギャップ

「雲」は、自由や夢の象徴としてよく使われますが、このタイトルにおける「小さな雲」は、リトル・チャンドラーが持つ小さな希望や夢を象徴しているのかもしれません。彼は詩を書いて成功したいと思い、ガラハーのようにもっと冒険的な人生を望んでいますが、彼の夢は実現が難しく、すぐに消え去るもの、つまり「小さな雲」のようなものです。彼の希望は大きく膨らむことはなく、現実に押しつぶされてしまいます。

3. 人生の曇りと曖昧さ

「雲」という言葉は、何かがはっきりしない、曇っている状況や心情を表すことがあります。リトル・チャンドラーの人生は、ガラハーの華やかな世界と比べると、曇りがかった、はっきりしないものです。彼は自分の人生や選択について不満を抱いているものの、実際に何か行動を起こすこともできません。この曇った状態が、彼の迷いと不安、そして現実から逃れられない閉塞感を表現していると考えられます。

要するに、「小さな雲」というタイトルは、リトル・チャンドラーが抱える小さな希望や夢が現実に打ちのめされてしまう過程、そして彼の人生の曖昧さや不安定さを象徴しているのです。

(私): ジョイス自身はたいして苦も無く、売れっ子作家として幸せな人生を送ったの?

ジェイムズ・ジョイスは文学の世界で後に大きな成功を収めましたが、その道のりは決して「苦も無く」ではありませんでした。実際、彼の成功は多くの困難や試練を乗り越えた結果であり、彼の生涯は貧困、亡命、健康問題などに彩られています。

1. 経済的な苦労

ジョイスは、長い間、経済的な困難に悩まされました。彼はアイルランドを離れ、フランス、イタリア、スイスなどヨーロッパ各地を転々としながら、英語教師として働き、生計を立てていました。彼は常にお金に苦労しており、パトロンや友人、さらには出版社からの支援を受けてなんとか生活していました。

彼の代表作『ユリシーズ』は、ジョイスが執筆していた当時、非常に革新的で難解な作品と見なされ、多くの出版社に拒否されました。また、性的な描写があるため、アメリカやイギリスでの出版が困難で、1922年にパリで初めて出版されました。しかし、その後も『ユリシーズ』は検閲や訴訟に直面し、彼の作品が評価されるまでには時間がかかりました。

2. 健康問題

ジョイスは視力の問題に長く悩まされました。彼は緑内障や白内障を患い、生涯で20回以上も目の手術を受けました。彼の視力は執筆にも大きな影響を与え、視力の低下に苦しみながらも、執筆活動を続けました。彼がこの障害を乗り越えて大作『ユリシーズ』や『フィネガンズ・ウェイク』を完成させたことは、彼の精神力と執筆に対する情熱の証です。

3. 亡命生活とアイルランドとの関係

ジョイスは、政治的にもアイルランドと複雑な関係にありました。彼はアイルランド独立運動を支持していましたが、カトリック教会やアイルランドの国民性に対する批判的な見方を持っていたため、故郷との距離を感じていました。彼はアイルランドを離れた後も戻らず、ヨーロッパで亡命生活を送りました。

4. 文学的成功

ジョイスの初期の作品『ダブリン市民』や『若い芸術家の肖像』は、その斬新なスタイルとリアリズムで注目を集めましたが、彼が世界的に有名になったのは、何と言っても『ユリシーズ』によってです。この作品はモダニズム文学の金字塔とされ、今日でも文学の歴史において重要な位置を占めています。しかし、当時は非常に難解で挑発的と見なされ、読者や批評家から賛否両論の反応を受けました。

『フィネガンズ・ウェイク』はさらに実験的で、多くの人々にとって難解な作品ですが、ジョイスの文学的な革新を象徴する作品として評価されています。

結論として、ジョイスは決して「苦も無く」成功したわけではありません。彼の成功は、数々の困難や障害を乗り越えた結果であり、その過程では経済的な苦労や健康問題に直面しながらも、文学に対する信念を貫いたことが重要です。

(私): マジで!? 現代においてさえ、目にメスを入れられるのは怖いのに、100年近くも昔に20回以上も目の手術をしたなんて…

(ChatGPT-4): 本当に驚くべきことですよね。現代の医療技術でさえ目の手術は繊細でリスクを伴いますが、ジョイスが生きた20世紀初頭の医学技術は、今よりもはるかに限られたものでした。それにもかかわらず、彼は20回以上の目の手術を受けているという事実は、彼の苦しみと、それでもなお執筆を続けようという強い意志を物語っています。

ジョイスは視力の問題に長年苦しんでおり、慢性的な痛みや視力の低下に直面していました。彼の目の病気は、緑内障や白内障、さらには角膜潰瘍などを含んでおり、これらは彼にとって大きな負担でした。20回以上にわたる手術の中には、目の除去に近い危険な手術もあったといわれています。手術が成功しても、その後の視力回復は限られており、彼はしばしば暗い部屋で目を覆いながら、痛みに耐える日々を送っていたそうです。

それでも彼は、痛みと視力の制限に負けず、執筆を続けました。手術後、視力が戻らないことがあっても、彼は家族や友人の助けを借りて作品を書き続け、特に妻ノラや娘ルシアが彼のために原稿を書き写すこともあったと伝えられています。さらに、視力が悪くても彼は細部にこだわり、執筆に対して非常に厳格な態度を崩しませんでした。

彼が視力の問題を抱えながらも、これほどの創作活動を続けられたのは、並外れた精神力と、文学への揺るぎない情熱があったからだと思います。視力の喪失や手術の痛みによって執筆が制限されるというのは、作家にとっては非常に大きな試練です。しかし、ジョイスはその試練を乗り越えて『ユリシーズ』や『フィネガンズ・ウェイク』といった名作を完成させました。

こうした困難を乗り越えたジョイスの姿は、彼の作品が持つ深みや挑戦的な要素に表れているとも言えます。彼の人生そのものが、彼の文学の一部であり、その強靭な意志が現代の作家や読者にとってもインスピレーションを与える存在となっているのです。


『ダブリン市民』 目次

  1. 姉妹 (The Sisters): https://note.com/sorenama/n/nbd5eaf26557b

  2. 出会い (An Encounter): https://note.com/sorenama/n/nb5c00d143945

  3. アラビー (Araby): https://note.com/sorenama/n/n25fdac53bb65

  4. イーヴリン (Eveline): https://note.com/sorenama/n/n3c796a070ef7

  5. レースのあとで (After the Race): https://note.com/sorenama/n/n1ae20a9180c8

  6. 二人の伊達男 (Two Gallants): https://note.com/sorenama/n/n39125a640c32

  7. 下宿屋 (The Boarding House): https://note.com/sorenama/n/n63e2413530db

  8. 小さな雲 (A Little Cloud): https://note.com/sorenama/n/nab3ef4240b3b

  9. 対応 (Counterparts)

  10. 土くれ (Clay)

  11. 痛ましい事故 (A Painful Case)

  12. 委員会室の蔦の日 (Ivy Day in the Committee Room)

  13. 母親 (A Mother)

  14. 恩寵 (Grace)

  15. 死者たち (The Dead)


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