クリエイティブな打合せにコンサルが呼ばれるわけ
無事にメディア企業との初打合せを終えたヒルズ氏。女好きを隠さぬ社長と使えないマネージャー角刈り氏にも慣れてきた。これまた使えない新人Boy氏と優秀なアナリストお嬢氏と共に、今日もコンサル業務にまい進する。(前回)
やあ、久しぶりだな諸君。
最近ストレスフルでね。某メディアの契約担当が天然過ぎてびっくりしているんだ。契約書にサインお願いします、って金額空欄にして送りつけてきたんだが、これはスキャムか? それとも渾身のギャグか?
まあいい、、、さて、今日はクライアントが来てくれるんだったな。お馴染みガラス張り会議室に移動だ!
◆一抹の不安
開始予定時間を5分ほど過ぎたころか、爆乳総務の案内によりクライアント達が入ってくる。
起立!
「足を運んでいただきありがとうございます」
「いーえいえ、たまには来させてくださいよ」
メディア企業との新規事業プロジェクトは概ね順調だ。現在は事業案を出しあう第1フェーズ。ありがちなプロジェクトなのだが、、、
気がかりな点がある。
事業案の1つ、イベント立ち上げだ。
地域活性 × 番組作成 × イベントーー。詳細はふせるが、広告代理店、地元企業等と手を組み、毎年利益を生むイベントを立ち上げるのだとか。
「第3者がいてくれると本っ当に助かります!」
いつもメディアが頼る広告代理店は、実は長期戦略が苦手。我々に利害関係者を取りまとめ計画を管理してほしい、ということだ。
イベントかーー。
あまり新規事業感はない。
ビジネスモデルも甘い。
手元の資料に目を落とす。
それより、、、
それよりだ、、、
「蕎麦打ち♡湯けむり温泉取材」って、なんだ?
◆広告代理店戦略
「成功の鍵はね、やっぱり女の子なんですよ」
会議室には、広告代理店およびメディアの担当者たち、我々のチームメンバーであるお嬢、新人Boy、そして私が集合している。
「アイドルが蕎麦打ちする図、どうすか?」
両手を広げテンション高めな広告代理店担当者。すしさんまいの社長がよくやるポーズだ。
、、、もう知ってるからいいけどさ、
お前、RPG48を使いたいだけだろ?
こんなバカ案だしてくる担当者、いるか? メディアがなめられているのか、我々がなめられているのか、単に広告代理店の人材不足なのか、、、
無言になるコンサル集団。
しかしこの広告男、黒スーツにもかかわらずプロデューサー感が溢れ出ている。間違いなく斜めに流した前髪カールのせいだろう。ちなみに後方の髪はストレートだ。巻いているのかパーマなのか、何せ手が込んでいる。
「うーん、それじゃ今までの番組制作と同じじゃないですか」
メディア側が反論する。天然契約担当はともかく、現場のディレクターたちは優秀だ。発言にあわせ新人Boy氏が大きく頷く。おお、まともなリアクションとれるようになってきたじゃないか!
「じゃあ、イベントの中身なんですけど」
ってうぉい、前髪カール、今の指摘とばすのか?
「シーズンは春がいいですかね!」
、、、そろそろ止めるか。
あの、少し状況を整理させてください。コンサルカットインを開始。ホワイトボードにさくさくっと俯瞰図を書いていく。このあたりが腕の見せどころ。お嬢、新人Boyもうなずきながら聞いている。
だが、コンサルカットインには限界がある。
先方のレベルがあまりに低いと効果が発揮されない欠陥だ。
「なるほど!」
「わかりやすい!」
「で、どの女の子がいい?」
「蕎麦だし癒し系、柏木紀由ちゃん!?」
前髪カール、君は思考もカールしているのかい?
お嬢も新人Boyも、すでにメモをとっていない。
「何の論点も、得られませんでしたぁあああー!!!」お嬢の心の声が脳内にこだまする。
◆招かれざる客
じゃ、この方向でお願いするよ! 大丈夫大丈夫、うちで責任もって企画するから! マネジメント引き続きよろしく!
「有意義な会議でした!」
とどめの一言をキメる前髪カール氏をエレベーターホールで見送る。
「疲れましたね、、、」
ドアが閉まると同時に、げっそりした顔を見せるのはお嬢氏。
うむ、同意。疲れたな。
最近お嬢からスパルタ指導を受けている新人Boy氏は既に倒れそうな顔を、いや、ふらついているが大丈夫だろうか。
それにしても、、、メディアに広告代理店。これまで触れたことのない業界だったが、今日気が付いたことがある。
会議が、異常に長い
今日は2時間半に及んだ。だらだら話をするのをクリエイティブな作業と勘違いしているんじゃないか。
やれやれ、戻って今後の対策を練るか。少なくとも蕎麦♡温泉は止めたいところだな。戦略以前にダサすぎる。
歩き出した時だ。
「あのぉー」
背後からの声に振り返る。
「この会社にいきたいんですけどぉ」
突き出されるスマホの画面。
おや、弊社か。
ご案内します、ご用件は?
話しながら顔を上げる。
軽く170cmはあるだろう身長、細身のスタイル、キューティクルが主張する黒髪ロングヘア。
真正面から顔を見る。
「え、、、」
走る悪寒、凍り付く空気。
そこには、木村佳乃似の女が立っていた。
(次へ)
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