コンサル流、スタートアップの口説き方
社長の薄っぺらさ、お嬢氏の金脈の太さに圧倒されつつ、カリフォルニアの道を飛ばすヒルズ氏一行。ついに目的地である某投資会社に到着した。
(前回)
「私、ナパバレーにワイナリーを持ってるの」
なんというパンチの効いたセリフだ、言ってみたい人生だったな。というのは一旦忘れ、打ち合わせに向けて気合を入れるぞ!
◆睡眠不足時にすべきこと
「ようこそ!」
大きく手を広げ、笑顔で出迎えてくれる先方CEO。西海岸らしくカジュアルな服装だが、隠し切れない強欲感。華僑なのだろうか、薄塩ポテト系のあっさりアジア顔だ。
コーヒーを頂きしばし談笑したのち、打ち合わせ室に向かう。
正直に言おう。
眠い。
眠すぎる。
睡眠不足が続くと何が起きるか?
ハードワーカーな皆さんならご存じかと思うが、滑舌が異常に悪くなる。私だけではないはずだ。その証拠に、横のお嬢氏がアナウンサーばりに口の体操を繰り返している。
長年の睡眠不足生活で、滑舌カバー方法を少しは身につけた。とにかく口を大きく開く。口周りの筋肉をほぐす。これに限る。
お嬢氏を見習い、打ち合わせ室までの移動中に口の準備体操を続ける。通路の窓ガラスにシュールな我々の姿が映るが、気にする余裕もない。
◆利益の源泉
席に着くと、即座に薄塩CEOが一枚の紙を取り出す。
「うちのお勧めだよ」
スタートアップの一覧だ。事前に情報提供を受けているものが殆どだが、狙いは某テック企業、いい値段で売れそうだ。
「弊社はコンサル会社、多岐にわたる産業とコネクションがある。誰にどこがフィットするか、いくらでも情報提供できますよ」
社長、アピール。
アピールするのはいいが、頼むからクライアントと秘密保持契約を結んでいることを忘れないでくれ。鉄のカーテン(*)は一体どこへ消えたのだ。
「本件について、紹介先の日本企業から弊社は何ら利益を上げるつもりもない。だからこそ御社との契約は、、、」
よくもこう平気で嘘をーー。
こんな時、自らの大企業温室育ちを認識してしまう。この世は欺瞞に満ち溢れている。そして欺瞞の積み上げこそが膨大な利益を生み出す源泉だったりするわけだ。心しておこう。
◆大切なものを捨てた先に
強欲同士の話し合いがひと段落したところで、薄塩CEOが切り出す。
「スタートアップ2社がちょうど訪れているんだ」
短い時間にはなるが紹介したい。私は用があるので離席するが、紹介が終わったころに戻るよ。薄塩CEOが微笑む。
「「「ありがとうございます!」」」
とんとんと話が進むのも怖いが、仕方あるまい。
お嬢氏が横で観念したように目を閉じている。
いや、、寝ているのか?
ーーー
1社目:テック系スタートアップ
「いやぁ素晴らしい!」
卒業後すぐ起業だって?私なんかSタンフォードではただのパーティー野郎でね、はっはっはっ!
謎のテンションで社長が場を盛り上げる。
「実は私の修論、”小売りにおけるIT活用”だったんだ」
社長の無駄話を何度か遮り、質問を投げかける。興味を持つ企業は確かに思いつく。有力候補だろう。
ーーー
2社目:メディカル系スタートアップ
「いやぁ素晴らしい!」
「実は私の修論、”メディカル分野におけるIT活用”だったんだ」
うぉ!?
社員の前で秒ばれの嘘つくなよ!?
動揺する私のパソコンに、チャットが着弾 。
お嬢氏からだ。
”社長の修論、「通信分野における法規制の在り方」って聞きました”
!?
り、両方違うのか!?
これが、、、これが弊社社長の世渡り術。
人は羞恥心を捨てればここまでいけるのだ。
ふと、名作漫画「進撃の巨人」アルミンのセリフを思い出す。読んだことのない方のために引用しよう。
「何かを変えることのできる人間がいるとすれば、その人は、きっと、、、大事なものを捨てることができる人だ」
なぁアルミン、
ここに捨てまくっているやつがいるが、どうしたらいいんだ?私たちは何かを変えることができるのかい?
二次元登場人物に話しかけたくなるほどに錯乱しながら、スタートアップ紹介は終了。
「さぁ、ディナーに向かおうか」
ドアから薄塩CEOが顔をのぞかせ、ウィンクした。
(次へ)
(*) コンサル会社のクライアントは多岐にわたる、もちろんその中には競合同士となりうる企業も含まれる。よって、クライント情報は厳しく管理され各プロジェクト間には”鉄のカーテン”がひかれている、、、という話になっているが、どこまでやるかは企業次第だ。
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