コンサル会社に普通の人はいらない
「日次報告」フォーマットのために打合せをするエースたち。思いのほか普通の感覚を保った副社長、そして優秀なカニカニ氏との交流に心躍らせるヒルズ氏であった。(前回)
塩辛とジャガバタが相性抜群なのは一般教養だと思うが、ホタルイカの沖漬けも合いそうだよな? 気になって仕方がないが、ひとまず副社長との打ち合わせに向かうか。
◆社会的要請
「某飲料メーカーの案件だが私の参加は10%程度で考えている」
いきなり稼働率の話か。
「あと、提案資料等入ってるフォルダにアクセスできるようにしておいて」
それだけを言い残し立ち去る副社長。過去資料を前にぎゃんぎゃん言われと思っていたが、、、週末にメールで真っ赤に染まった資料を開くことになるかもな。
覚悟をして自席に戻る。
「ヒルズさん、初回打合せは来週水曜になりました」
某飲料メーカーは我々の支援もあってかコンペに通った。その後の社長ごり押し営業で受けたのが「プロジェクトマネジメント」だった。ようはプロジェクトの実行計画策定、進捗管理などをするわけだが、、、
「これ、コンサルの仕事ですか?」
自分でやったらいいじゃないですか、僕たちがうけるべき仕事じゃないですよね?
「まぁ3か月だし、たまにならいいですけど」
新人Boy氏が頭の後ろで手を組み伸びをする。
その通りだ。
これはコンサルの仕事じゃない。
そしてクライアントにとっても割にあわない。
だがな、タスクを分解できる人も進捗を管理できる人も、君が思うよりもずっと少ないんだ。プロに頼りたくなる気持ちもわかるだろ。
反論しかけ、そして立ち止まる。
「ここで得ているもの、もっと意識するといいよ」
カニカニ氏の言葉が頭をよぎる。
この案件から私が得ているものは一体何なのか。過去から得たスキルを吐き出す作業に何の意味がーー?
苦々しい思いを無視しメーラーを開く。
忙しさが思いを置き去りにする。
そして時は流れる。
◆アートな日報
翌週月曜 AM8:00
「なんですかこれは!?」
私たちは今、社長室にいる。朝から突然の招集、社長からの直メールにまさかと思い駆け付けた。そしてそのまさかが展開されている。
「これはプロフェッショナルの仕事ではありません!」
そう、私たちは日次報告フォーマットのために呼び出されたのだ。
「いいか!?このフォーマットにはロジックがない、私は日次の行動は月次の結果に帰結すると言ったんだ。そのフローはどこにいった?私の言うアートがわからないのか!?」
ロジック!?
フロー!?
アート!?
(((どれかはっきりしろや!?)))
心の声をグッとこらえ頷く我々。
「君もファシリテートしたんだろ!」
どういうことなんだ!?
ついに社長が副社長に牙をむいた。
◆責任の行方
さあ、ミスター普通はどう対応する?そこまで胆力があるタイプには見えないが、副社長の座にいるだけのことはあるのだろう。
全員が注視する中、ゆっくりと副社長が口を開く。
「いやぁ、ちゃんと指示したんですけどね」
へっ!?
衝撃発言に凍り付く我々。
「最終確認しないまま提出されちゃったんで」
まてまてまて? 最終確認も何も全ての過程は共有されていたではないか? あまりの言いがかりに横をちらりと見る。
1ミリも表情を変えない日報フォーマット作成者、カニカニ氏。3年目ともなると耐力が段違いだな。
「だから日報が必要なんですよ!」
「いいですか?これは経営に関わる話です!」
怒りの演説が再開された。経営を危うくする話の間違いではないか?と呆れ顔で聞いていた我々に社長が告げる。
「土日を返上してでも仕上げるように!」
(((Whaaaaaat!?)))
◆普通の会社員
(私たちなんかした?)
(新種のドラッグか?)
(俺は更年期障害だと思うぞ?)
あまりの理不尽さに困惑を隠せぬエースたち。合理性を重視する彼らが困惑しすぎてコーヒーメーカー前に行列をつくる始末だ。
私も気が付いたらその列に並んでいた。本当に私はコーヒーが飲みたいのか?いや飲みたくない。だがこのまま自席に戻ると魂が欠損しそうな、そんな気がしている。そうだな、何を言っているのか自分でもよくわからない。
「皆、落ち着け」
そこに現れるは百戦錬磨のカニカニ氏、
「社長は元からあんなもんだろ?」
(((た、確かに!)))
正気を取り戻した猛者どもが自席に戻っていく。
私も魂を保つことができたようだ。
自席に戻り、コーヒーを一口すする。冷静になったことで漸く事の重大さに気が付く。
日報なんぞどうでもいい。
そう、最大の問題は副社長だ。
普通だと思っていたがまさか「普通にダメな会社員」だったとは。批判を横に受け流し、部下に責任を擦り付けるーー。絵に描いたようなダメ中間管理職ではないか。あのタイプが案件に参加するのは不安、というかもはや事故。社長へのエスカレーションは私が直接すべきか、、、
思案していた時だ。
LINEの新着に気が付く。
「水曜定例会後、ランチいきませんか?」
、、、お嬢氏?
2.5m先にいるんだがなぜLINE?
「個室でお願いします」
(次へ)