コンサルよ、社内の友情に感謝せよ
困惑のカリフォルニア出張からようやく帰国したお嬢とヒルズ氏。そしてさらなる困惑は東京の地で続くのだ。(前回)
私は日本が嫌いなわけでも、カリフォルニアが大好きなわけでもないのだがどういうことだ? 帰国便がこんなにも憂鬱だなんて。さぁ楽しいことを考えよう、帰国したら寿司、蕎麦、饂飩、豚骨ラーメン、、、いや豚骨ラーメンはパスだ!
◆フレームワークという装飾
羽田空港からタクシーに乗る。すでに新橋居酒屋で会社員がくだを巻く時間なのだが、向かうは当然の如くオフィスだ。
「ヒルズさん、大丈夫ですか?」
お嬢氏に心配される。
どうやら相当顔色が悪いようだ。
「あぁ、、なんとか、、、」
声を振り絞り、ヒルズに向かい中指をたてそうになる。
カリフォルニアからの帰路、機内での時間はほぼ提案書の修正に費やされた。某飲料メーカーへのごり押し営業。搭乗前に新人Boy氏から送付された提案書(案)を開き、そして絶望。
中身、薄っぺらすぎだろ、、、?
無駄に綺麗なスライドを眺める。
画面に並ぶ、丸、四角、三角、矢印、、、
コンサルタントの得意技、フレームワークとは罪深い存在だ。本来は強力な思考ツールなのだが、ともすれば「全然知らないけど、よく考えた風に見せるための装飾」として機能してしまう。そんなデコレーションに酔いしれるのが仕事だと勘違いする者の多いことよ。
今やるべきことはスライド作成なんかじゃない、クライアントとの対話だ。ヒアリング項目を挙げた方がよっぽど有益なフェーズ。提案書を急ぐ社長も社長だが、真に受ける方も問題だ。溜息をつき、提案書と見せかけたヒアリング資料を作る。
あぁ、眠い。
新海監督作品でも眺めて眠りにつきたい、いやボヘミアンラプソディーもいいな、ウィーウィール ウィーウィル ロッキュー!!!!
、、、ちきしょう。
結局ほとんど眠れなかった。機内での錯乱状態を思い出し苛立つ最中、胸元のスマホが静かに揺れる。
角刈り氏だ。
◆残酷な実力主義
「あ、ヒルズ君お疲れ様。提案書の件だが、、」
あー、機内で手直ししましたよ。手直しというか抜本見直しというか、、今向かっているので後程説明します、、、えぇ、えぇ、、
え?
えぇ?
プロジェクトを、、、は、外れた?
「というか、マネージャーから降りることになってね」
今後は"コンサルタント"として頑張るよ。ははは。
角刈り氏、突然の降格ーー。
乾いた笑いに目を見張る。団塊世代の悲劇という前科があるとはいえ、よっぽど社長に嫌われたのか。角刈り氏、上司としては明らかに難ありだったが、それは彼を採用し登用した者の責任だ。気の毒にもなる。
「すまないが、今日は帰宅させてもらうね」
何と声をかけていいかわからず「わかりました」とだけ告げる。
次第に近づく東京タワーをぼんやり眺める。
ふと前職を思い出す。所属していた時はあれほど嫌だった、年功序列の古い人事制度。今となっては暖かさすら感じる。
ないものねだり、かーー。
◆ヒルズの友情
「「「おかえりなさーい!」」」
ドアを開けた途端、妙にテンションの高い出迎えをうける。
(お嬢氏さん、大変でしたね)
(何かあったら言ってください)
(ヒルズさんもよくぞご生還を!)
ひそひそと声をかけるコンサルタントたち。どうやら、カリフォルニア隣室事件は既に共有されていたようだ。
熱い抱擁を交わす、お嬢氏と爆乳総務。
ヒルズ砂漠でこれほどの友情を目の当たりにするとは。角刈り氏降格からの反動だろうか、なぜかジーンときてしまう。いや、単なるセクハラ未遂事件の結果なのだが、、、私め、疲れているな。
さっさと切り上げて帰るか。
コーヒーを片手に、新人Boy氏から現状把握を試みていた時だ。
フロアの空気が一変する。
「ヒルズ君、ちょっと」
社長が現れた。
(次へ)
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