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なぜトランプはNNN記者の質問を理解できなかったのか

先日、中間選挙後のトランプ記者会見で、NNNの日本人記者の英語が通じず遮られるという一幕があった。

どんな英語だったかは以下の動画をご覧いただきたい。

大統領は本当に理解できなかったのか、彼の差別意識が根底にあるのではないか、様々な意見が飛び交っている。

結論を言おう。


あれは、通じない。


なぜ通じないかに入る前に断っておくが、トランプの記者に対する態度は常に最悪だ。"I don't understand" というのも失礼な言い回しであるには間違いない。

もう一つ断っておくと、私は記者個人を責めるようなことはしたくないし、すべきではないと思っている。今回の一件は明らかにNNNという企業の人員配置ミス、採用ミス、もしくは社全体としての人材不足だ。あのレベルの記者を、事前に予想できた記者会見に送り込む神経が、私にはまったく理解できない。

それを踏まえたうえで、今一度冷静に「通じる英語とは何か?」を考えてみよう。

私自身は海外大学院を卒業し、その過程で英語に苦労した経験がある。今回は日本人が英語を話すうえで大切なポイントも多く書いている。すべて無料なので、安心して最後まで読んでほしい。

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1. 通じる英語の構成要素

通じる英語、と言ってもよくわからないだろう。少し要素を分解して考えてみよう。私が考える"通じる英語"の構成要素とは、以下の3つだ。

1)発音
最初の難関。まずは正しい発音で聞き取ってもらえないと文法も内容も判断のしようがない。

2)文法
日本にはなぜか文法軽視の風潮があるが、適切な文章構造とワードチョイスは必須だ。

3)内容
当然のことながら最も重要。薄っぺらい内容ならむしろ発音が悪くて聞き取れないほうがましなくらいだ。英語の場合は、英語圏の人間が理解しやすい内容か?という考慮も必要だ。

スピーチや営業トークだとここに全体の流れも加わってくるが、今回は短い時間での質問なので割愛しよう。

では、一つずつ見ていこう。

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2. 発音がだめ

まず発音だが、残念ながらかなり悪い。
どのくらいかというと、生粋日本人である私が

本当に聞き取れない

レベルで悪い。

どうだめなのか?
発音と一言で言っても、多くの要素がある。
ざっくりとわけると3つだ。また3つ、コンサルぽくていいな!

1)英語の音を発音できるか?
発音と言われて、まず日本人が想像するのがこれだろう。
特に日本人は、LとRの違いや、SとTHの違い、、、といった子音の違いに注目しがちだ。

しかし、実は母音(日本語ならあいうえおの5つ)もずいぶん違う。
例えば、"hot"と"hat"の発音を正確にできる日本人駐在員はどれだけいるだろうか? 私の経験上、残念ながら殆どいない。

2)強弱をつけて読めるか?
実は、1つ1つの発音以上に大切なのがこの強弱だ。今回の問題も、ここがネックだった気がする。例えば

Do you have a pen?

と言うときに、のっぺりと全部同じ音量で読むと、高確率で???という顔が返ってくるだろう。お前、、、機械か?状態だ。

この文章で強調すべきはどこか? 言い換えると、消せない言葉は何か?

havepen

この二つさえあれば、ああ、ペンが必要なんだな、とわかってもらえるだろう。こういう、絶対に外しちゃダメな音はしっかり発音しないとだめだ。

では、ここで記者会見を振り返ろう。
まず冒頭で記者は

Can you (just? tell us?) how you focus on the economic,,,

と質問している。()はよく聞き取れず推測。

いやまじで分らんぞ、何言ってんだ、、、?
なので仮に

"Can you tell us how you focus on the economic,,,"

としよう。知らんけど。
意味わからんが気にするな、、、

ここで強調すべき言葉はどこか?
答えは、

Can you tell us how you focus on the economic,,,,,

だろう。
記者の質問では、最初の動詞が入る肝心の部分(私が推測でtellと入れている個所)が全く聞き取れない。何がcanなのか分からないのだ。
さらに、冒頭のcan youは普通は強調しない。強調すると「あんた本当にできるんか?」というニュアンスが出る。今回の記者の発音がまさにそうだ。

ああ、残念だ。

3)つなげて読めるか?
次に大切なのが、1フレーズをつなげてよめるかどうか?例えば、

Thank you

サンク ユー

と読む日本人はあまりいないだろう。サンキューと聞きなれているからだ。でも考えてみてほしい。Thank とYouの間にはスペースがあるのになぜつながるのか?と。

そう、英語はつなげて読まないと、相手は理解に苦しむことになるのだ。
今回の記者、一個一個きれいに切り離して発音していたが、一回でも練習したんだろうか、、、
練習したんだとすると、ちゃんと教えてくれる人はいるのか、心配になる。

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3. 文法がだめ

もう発音だけでお腹一杯だが、文法に移ろう。

まずはワードチョイスの問題からだ。

最初に紹介した

Can you (just? tell us?) how you focus on the economic,,,

だが、"Can you,,,"は大学の教授にもなかなか使わない。カジュアルすぎだ。大統領相手だったらCould youだろう。


そして一度トランプに遮られた後、記者は

That's my question, actually.

と言っている。
私もよく使ってしまうのだが、actuallyはビジネスの場では極力使わないほうがよい。しかも大統領相手に。

今回、彼が発した英語を訳すると、

「それこそが私が聞きたいことです、実際。

実際って、、、
君、大統領のお友達なんですか?状態である。


次に、その後の質問だが

“So, how you focus on the trade and (economic issue with?) Japan. Will you ask Japan to the more, or will you change the tone?”

()はよく聞き取れなかった部分。
推測で書いている。
それは置いといて、この文章は凄いぞ

まずだ、

"how you focus on" って、なんだ?
中学英語レベルの構文が成立していない。how will you focus onといいたかったのか? それともhow did you focus on、つまり過去の話を聞きたかったのか? これだけでは全く分からない。

次に、

ask Japan to the moreって、なんだ?
ここまでくると自分の英語力に自信がなくなってくる。ask+目的格+toときたら次は動詞が来るもんだと思うのだが、なんか新たな用法があるのか?
仮にあったとして、何をmoreなのか?the moreという流行語でもあるのか?

そして、

will you change the tone?って、なんだ?
誰のなんのtoneをどう変えるんだ?質問として一切成立していない。

、、、、、、

これは私の推測だがgoogle 翻訳で質問を作ったのではないか?そうでないと考えられないほどの文法ミスだ。

今回は中間選挙後の記者会見という、万全の準備が可能だった場のはずだ。中学生レベルの英語ミスをしないでほしい。

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4. 内容が一番だめ

そして更に残念なのだが、今回一番の問題は「内容」だ。

彼が、あんな醜態をさらしてまで質問したこととは何だったのか?英語のせいで内容が本気で理解不能なのだが、フルに推測能力を働かせると

「どのように日本との貿易交渉と経済問題を進めるのか?もっと関税をあげるよう日本に言うのか、それとも(これまでの締め付け)トーンを変える(緩める)のか?」

だろうか?
いい線いってるんじゃないか?

だから、はっきり言わせてもらう。

馬鹿なのか?


こんな小学生のような稚拙な質問を、日本の記者がしたことに私は大きな衝撃を受けている。

もちろん、彼自身が考えたものではないかもしれない。本社からの指示かもしれない。だとすると、余計にぞっとする。
理由は簡単だ。

この質問を聞く理由がないからだ。

こんな拙い質問で、トランプがあの場でトーンを変えると言うわけがない

いや、そもそも「トーンを変える」という言葉の意味が分からない。

さらに言うと、この記者はトランプから何の発言を引き出したかったのか。この質問では、ネガティブはあれどポジティブは皆無だ。

記者であれば、関税問題がアメリカ国内に与える影響や国際法の観点など、政権として聞いてほしくない部分を巧みについて本音を引き出そうとするものではないか? アメリカの現在の貿易交渉の理不尽さを知らしめる場にすべきではないか? 各国記者はそうやったからこそ、トランプと喧嘩にもなっているのだ。

とにかく信じられない気持ちでいっぱいだ。

NNNはむしろ、英語に注目されて助かったのではないか?

流暢な発音であの質問を続けられたら、いやもしもこれが日本語だったら、英語力ではなく頭の悪さがもっと目立っていただろう。

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5. 英語は下手でも仕事はできる?

と、手厳しいコメントを続けてしまったが、、、

一方で、英語は下手でも仕事はできる、という意見がある。

賛成だ。

ただし、相手にメリットがある場合に限る。

明確な強みのある商品を持っている、コネを持っている、融資できる、、、なんでもいいが、自分側にウリがある場合は、英語が下手でもある程度我慢して聞いてくれる。

日本人駐在員の英語レベルは、残念ながら引くほど低い。

それでも生き抜いているのは、企業側に価値があるからだ。なくなったら相手にもされないだろう。(海外に拠点があるだけで、その実英語をほぼ話していない駐在員も存在するが)

ただし、高度な交渉が必要とされる場では、どんな企業に勤めていようとある程度の英語力が必要になってくる。大切な打ち合わせで "work hard (懸命にやる)""work hardly (ほとんどやらない)" を間違えられては困るのだ。(残念ながら実話だ)

これらを踏まえて、今回の記者の一件を振り返ろう。

彼はトランプに価値を提供したか?
彼はトランプにとって大切な人物か?

答えはNoだ。

彼は記者だ。
記者とは、基本的に情報を取りにいく立場だ。
もちろん、Give & Takeが成立する場合もある。だが、今回のNNNの記者は明らかに情報をいただく立場であり、Giveするものは皆無だった。

"言葉"を売っている記者が、英語が下手でいいわけがないのだ。


様々な意見が出ているのを見た。

記者擁護派の意見には
「あれがオバマ大統領だったならあんな返答にはなっていなかったはず、彼はやはり差別的だ」
というものがあった。

確かに、オバマ大統領ならクソみたいな質問と英語でも意をくんで回答をしてくれた可能性はある。しかし、その仮説に意味はあるか?

彼は、オバマではないのだ。

さらに酷い意見は
「移民であるメラニア・トランプの英語は聞き取れるのに記者の英語は聞き取れないのか」
というもの。多方面に失礼すぎて頭が痛くなる。

もう一度言おう。

NNNの記者はトランプにとって、価値もなければ大切な人でもないのだ。

話を聞きたくば、英語力は必須だ。

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そろそろまとめに入ろう。

今回のNNN記者の質問は、発音、文法、内容すべてにおいて大きな問題があり、理解は難しかっただろう。

個人的感想としては、NNN記者の質問に対しトランプは(彼にしては)精いっぱいの寛容さを発揮したように見えた。質問が始まってすぐ、聞き取れず困惑の表情を浮かべながら、顔を寄せて聞き取ろうとしている姿は見て取れたからだ。この時点で、気が利く記者ならパラフレーズを使い質問しなおす。それができる記者なら、こんなことにはなっていないのだが。

トランプを、差別主義!無礼者!と罵りたければやればよい。
私もおおむね賛成だ。

だが、今回の一件からNNNが考えるべきはそんなことではない。

記者レベルの低さーー。

この問題に本気で向き合わない限り、彼らに未来はないだろう。



あとな、所属くらい最初に名乗れよ。


Twitter: @soremaide


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