コンサルよ、緊急事態に備えよ!
お嬢氏との個室ランチ後、オフィスに緊急事態宣言が発動されたことに気がつくヒルズ氏たち。「社長が御乱心」とは一体なんのことだろうか。(前回)
あぁ、しゃぶしゃぶ美味しかったなぁ。半分くらい落下したけど、美味しかったなぁ、あぁ、今すぐ引き返しもう一度しゃぶしゃぶ食べた、、、
◆エレベーターピッチ
静かにエレベーターが上昇する。
「オフィスには私が先に入ります」
「了解」
上司への報告は15秒のエレベーターピッチで素早い意思決定を、などとどや顔で主張するやつがいる。だが、君は実際に15秒でプレゼンしたことがあるか? あれはいわゆる「帯に短し、たすきに長し」だ。重要な意思決定は適切な時間を抑えることをお勧めする。逆に、既に文脈を共有しているお嬢氏との会話は3秒で終わった。
「では後程」
ドアの向こうにお嬢氏が消える。
そう、お嬢氏は副社長のターゲットなのだ。
ここでさも私とランチしてきましたと言わんばかりに一緒にオフィスに戻るなど、敵に隙を見せる行為に他ならない。上司に媚をうっている、などあらぬ噂が立つ未来は容易に想像できる。
「めんどくさくなってきたな、、、」
休憩室で少し時間をつぶし、ひっそりとオフィスのドアをあける。
「お、ヒルズ君、ちょうどよかった」
すまない爆乳総務、気配は消せなかったよ。
「ではみんな手を止めて!注目!」
◆唯一無二の備品
「こんなことを告げるのは本当にショックなんだが」
前で社長がうろうろとしだす。TEDトークウォーキングってやつだ。表情は穏やかだが額には汗が噴き出た形跡、血管が隆起しているのを見るに怒鳴り散らした数分後、という感じだろうか。
「残念ながら、社員による窃盗事件が発生した」
窃盗?
会社の金?
いやそれなら横領か。てことは備品?
、、、えらくけち臭い話だな。どうでもいいからさっさとは話を終わらせてプロジェ、、
「わかってるのかい?カニカニ君!?」
な!?
ど、どういうことだ、、、?
狼狽える私、同じく動揺を隠せないお嬢氏。
いや、オフィス全体がざわついている。あのキレ者かつリーダーシップもあり人徳あふれるATカニカニ氏が備品を盗んだなど、誰が信じられようか。
「あれはね!もう二度と手に入らないんですよ!」
ん?
二度と手に入らない、、、備品?
「どれだけ!楽しみにしていたことか!」
拳を振り回し社長がヒートアップする。
数人が何かを察知し下を向いた。
ふむ、なるほど下を向いたね、つまりあれね、これはヒルズオフィス特有の緊急事態ね、なるほど何が来るかは未だわからない、だが私も防衛体制を整えるべくえーーっとハンカチはどこに、、、
「あのホタルイカ!」
(((ホタルイカ!?)))
「初物だったのですよ!」
((( 初??! 物?!! )))
◆ホタルイカトラップ
あーーーーーーーー?
ホタルイカ!!!
の!!!
沖漬け!!!
某日の記憶が蘇る。コーヒーカウンターにカニカニ氏、冷蔵庫の前でホタルイカの沖漬けを手にするはギャル氏。
”へぇ、うちの嫁の好物だわ”
”あ、そなの?持って帰る?”
あの穏やかな時間ーー。ヒルズの奇跡のようなひとときがこの事態を?
「なんとか言いなさい!カニカニ君!」
完全パニックの社長がカニカニ氏を指さす。カニカニ氏、涙目。この涙が悲しみでもなければ怒りでもなく後ろめたさでもないことを私は理解している、あぁ大丈夫だ、みんなわかってるよーー。
「いえ、あの、、、頂いたことは、、ごふっ」
「じ、事実でして大変申し訳なく思っております」
(((よく言い切った!)))
(((さすがカニカニ氏!)))
オフィス内が感動に包まれる。
見える、私にはスタンディングオベーションが見えるぞ。
「いいですか!これは刑事告訴を考えてもよい事態なのですよ!」
対する社長はさらにヒートアップ。
ハンカチを口に押し当てながら社長の熱弁に耳を傾ける我々。
「とにかく!爆乳総務くん!」
「監視カメラ!冷蔵庫に監視カメラを!」
(((( はぃ!? ))))
斜め上から投下される社長爆弾にメンタルが崩壊しかけたその時、救世主が現れた。
「いま戻りまし、、、あら???」
佳乃氏だ。
(続く)
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