コンサル社内は疑り深く生き抜け
カリフォルニアから帰国、と同時に聞かされた角刈り氏の降格。動揺しつつオフィスに向かった先で、ヒルズ氏は社長室に呼びだされる。(前回)
東京タワーの色は冬の方が好みだ。わかってくれる人いるかな? あぁ、そうなんだ、どうでもいいことが言いたい気分なんだよ。さて、社長室に行きますか、、、
◆責任と報酬
いつもなら社長は夜の社交、という名の無駄遣いタイムなのだが、、、まだいたのか。
瞬く間に社員の顔から輝きが失われ、死んだ魚の目に変わる。仮死状態の習得ーー。人の進化を見た気がする。
いやそれより、私に何の用だ?
考えられるのは、、、
昇進か。
角刈りマネージャー亡き今(死んではいないが)、順当だろう。自分で言うのもなんだが割と、いや結構、いやかなり成果を出している気がする。
ふと、佳乃氏から聞いた話を思い出す。
「マネージャーになると、皆さん辞めちゃうんですよね」
マネージャーに課される責任は重い。厳しい売上目標を持たされ、チームのパフォーマンスに対し全責任を負う。社の方針決定にも関わりだす。給与が上がるとはいえ、見合っているのか甚だ疑問だ。(*)
受けるべきかーー。
◆疑心暗鬼
思いを巡らせながら社長室に入る。
東京タワーをバックに、窓際に腰掛け足を組む社長。穏やかな微笑み。どうした、なぜ急に夜の口説きモードなんだ?
「今日話したいのはね」
ごくり。
「君の営業スタイルなのだが」
ん?
「なかなか上手くやってるとは思うよ、でもね、今回のコンペでよく分かっただろ?仕事は人と人との繋がり。君も、ワインでも飲みながら人と会って仕事をしたまえ!」
んんん?
「仕事とは、、、」
立ち上がり、席に移動する社長。
「遊ぶようにするものなのだよ?」
流し目をキメる。
「はあ、、、ぁ?」
困惑する私を光速で置き去りにし、遠い目をする社長。
私は若い頃からね、パーティに参加しながらビジネスの話をしてきたんだ。昔アメリカに行ったときは、そうだねぇ、ハンバーガーを立ちながら食べて、、あ、そうそう、NHKKのドラマに主人公の妹役で出てた女優さん、知ってる?彼女はね、某社役員の紹介で (以下略)
な、ななな、なんの話だ!?
脈絡がなさ過ぎて要点がつかめない。パーティー野郎がアメリカでハンバーガー立ち食いしてNHKKの女優がなんだって? 微妙な笑顔を浮かべたまま精神の安定を図り、意図を探る。
遊ぶように、、、、
社内に放蕩仲間が欲しいのか?
いや、、、何かの罠なのか?
社長はバカではない。合理性を欠くこの「遊ぶように仕事をしろ」発言、最大限に警戒して間違いないだろう。
「承知しました。営業のやり方を少し見直してみます」
できるだけ穏やかに返答する。そして心に誓う。今後のクライアント接待は極力控えよう。温室育ちの私も随分と疑り深くなってきた。
◆助っ人の名のもとに
どうやら昇進の話はなさそうだ。残念と安堵が入り混じるとともに、ここで過ごす時間の無駄さに気がつく。
「あ、そうそう!」
速やかに部屋を出ようとする私を呼び止める社長。
「君のチーム、マネージャーが空いてしまったね」
ようやく本題かーーーーい。
「ということで、副社長がフォローに入ることになったよ」
営業フェーズももうすぐ終わりだ、プロジェクトが立ち上がったら副社長に入ってもらうよ。頼りにしてくれ。
、、、何を言っているんだ?
ここで解説を挟むが、弊社にも「副社長」は存在している。その割に今まで話に出てこなかったのはなぜか?
簡単だ。
絡みゼロだったからだ。つまりこれまでの案件に副社長は関わっていない。彼が知っているとすると、役員会議に出される報告レベルだろう。
にも関わらず、なぜ我がチームへ?
私も随分とこの会社に慣れてきたと思っていた。しかし、今日の社長の話は一体何なのだ? 何か、、私のヒルズ生活に新たなフェーズが訪れようとしているのか?
社長室のドアノブに手をかける。
「ヒルズ君」
なぜだろう
「君がマネージャーになる日も近い」
穏やかな社長の声に
「期待しているよ」
戦慄を覚えるのはーー。
(次へ)
(*) コンサル会社にもよるが、売り上げに対し責任を負うのはパートナークラスのところも多い。いずれにせよ、コンサル会社で昇進すればするほど人たらし力が必要となっていく。
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