チャイと特別な週末を届けたい
インタビュイー:木下寛/STAND CHAI ME. (@standchaime)
都内を中心に、複数のスパイスを使った本格クラフトチャイを提供するPOP-UPプロジェクト。Asuka Watanabeがデザインしたコラボレーショングッズは好評発売中。#StandChaime
ポップアッププロジェクト「STAND CHAI ME.」で本格クラフトチャイを作る木下寛さん。本人が“本格”というほどの自信は、研究を重ね妥協することなくこだわったレシピにあった。
そもそも、チャイはどうやって作るのだろう。普通のチャイとの違いはどこにあるのだろうか。そこで木下さんに、日本での一般的なチャイとは一味違う、こだわりの淹れ方を教えてもらった。
STAND CHAI ME.流チャイの淹れ方
―最初にチャイを作ろうと思ったとき、どのようにレシピを研究しましたか?
「最初はネット上のレシピをたくさん見ましたね。茶葉とスパイスを煮出してから、砂糖と牛乳を加えて再度煮出すのが一般的なチャイの作り方で、そこから手探りで研究して独自の作り方が生まれました。
うちのチャイはスパイスだけを先に煮出します。そのあとに牛乳、砂糖、茶葉を加えて再沸騰させているので、工程が少し違うかもしれません。1回に使う茶葉の量がえげつなくて、それをじっくり煮ずにパッと上げます。牛乳を入れて再沸騰させるまでのあいだしか茶葉が入っていないので、茶葉が主役のチャイだけど、水に浸っている時間がほかの何よりも短い」
―それによってどのような効果が生まれるんですか?
「手探りでやっていったから、正直にいうとわからないんですよね(笑)。本当は少ない茶葉で量産したいけど、今の味が自分の中で最高到達点だからレシピを変えられないです」
―以前イベントで木下さんのチャイを飲んだとき、かなりスパイスが効いていて衝撃的だったのを覚えています。
「シンプルにおいしいチャイを作っても忘れられてしまうので、作るときにポジティブな違和感を意識しています。癖強め、ラーメンでいうとニンニクマシマシみたいな(笑)。初期段階から人が入れていないものをとにかく試していたかもしれません」
―木下さんがこだわって入れているものはありますか?
「香り付けのために、サルタナレーズン(※)を入れています。チャイはお酒と飲むときにラムチャイとして飲まれることがよくあるんです。ラムとレーズンの相性がいいので、チャイに入れてもまずくはならないだろうと思って入れたらおいしくて。これが特別な癖を出している気がします。手探りではあったけど序盤から入れていました」
※サルタナレーズン:トルコ産、オーストラリア産のサルタナ種を使った黄金色のレーズン
―生姜の印象も強かったです。体が温まるチャイですよね。
「ピリッとしたスパイシーさには黒胡椒を使う人が多いけど、僕は生姜をすりおろして入れているから、それでエッジが立つのはあるかもしれません。癖が強くなるから砂糖の量を増やさないといけないし、味の調整が難しくなる。だから使っていないところが多いと思います。
いろいろなものを試しながら、10~15回目くらいレシピを調整した段階で売り出し始めました。そこからアップデートを重ねて、今のレシピで24回目くらいです」
―試作中に入れて失敗だったものや、今から改良しようとしていることはありますか?
「豆乳はどうしてもおいしく作れませんでした。あとはナツメグかな。癖が強すぎて。改良したいところはまったくないです。ここ1年くらいレシピを変えていません。
ちなみにここ2、3年で日本でもチャイシロップを使わない本格的なチャイを提供する専門店がたくさん増えました! 都内でも大好きなお店はいくつかあります。コーヒーと同じようにチャイも深いところまで追求するほど好みが分かれるので、あくまでの僕の中では自分の作るチャイが一番おいしいと思っているのですが、これはもう完全に好みの問題ですね」
―夏のポップアップではアイスチャイも作るんですか?
「この作り方だと一度ホットチャイが完成してしまって、冷ますのに時間がかかるしおいしく作れなくて。現地の人たちがホットしか飲まないから邪道に感じるのもあって、夏でもホットしか作っていません」
こだわりのチャイと音楽のある週末を届けたい
木下さんは会社員として働くかたわら、DJとしても活動する。そんな木下さんが2017年4月に立ち上げたのがポップアッププロジェクト「STAND CHAI ME.」。随所にこだわりがあり、自分で作ることは到底できそうにないこだわりのチャイはここで飲むことができる。
ポップアップで楽しめるのは、本格クラフトチャイ、アルコール、DJ。仕事でも空間作りに携わる木下さんならではの、週末にときどき現れる大人の遊び場だ。
―チャイの改良をストップしている一方で、「STAND CHAI ME.」としての変化はありましたか?
「さらにおいしくする以上に、もっとたくさんの人に飲んでもらう努力をするようになりました。4月からのポップアップができていない期間にはマーチャンダイズを作って話題を絶やさないよう意識しています。そうしているうちにこのプロジェクトでは、チャイだけではなく“チャイと音楽のある週末”を届けていることにも気づきました」
―チャイ、アルコール、DJと3本の柱があり、それぞれを求めて来た人たちが居合わせる空間を作る。その経験をもとに将来はサードプレイスを作りたいと聞いています。そのとき提供するドリンクにチャイがあることはどのような役割を担うと考えていますか?
「お昼から夜中までやっているということもあり、同世代の友人はもちろん、子連れ家族やご年配の方、チャイマニアな方など、さまざまなコミュニティから各々の目的を持って遊びに来てくれるんですよね。サードプレイスを作るとなるとコミュニティや体験がベースになるし、そこで本格的なチャイが飲めるというのは人を集める口実になりやすいのかなと思います。
自分が作ったチャイ以上においしいものに出会えることがあまりなくて(笑)、そのくらい味に自信はあります。でもお客さんの中にはチャイを飲まずにビールだけを飲む人もいる。すでに『STAND CHAI ME.』はチャイを含むパッケージになっている気がします。既製のチャイシロップやティーバックを使ったチャイより絶対においしいって胸を張って言えるので、武器として重要な役割を果たしていくはずです」
インドで出会った"カルチャーとしてのチャイ"
サードプレイスを作るために提供するドリンクはアルコールだけでもよかったはず。それなのに、仕事にDJと日々を忙しく過ごす中でわざわざチャイを研究してきた。そのきっかけは木下さんがインド旅行で出会った、生活とチャイの関係にあったという。
「インドでは街のいたるところにチャイがあって、生活と密接しているんです。日本でいうと、おばあちゃんが夏でも熱いお茶を急須で入れて飲むイメージが近いかな。夜にお酒を飲んだあとや、電車で移動しているときに車内販売で買って飲むこともあります。そういうカルチャーとしてのチャイという部分が面白かったのと、どこで飲んでもめちゃくちゃおいしいことに感動しました」
―日本でおいしいチャイを飲みたいと思ったとき、具体的なお店やブランドの名前が他の飲み物より思いつかないなと思いました。
「僕が『STAND CHAI ME.』を始めた頃はまだ都内でもチャイの専門店が少なくて、ましてやクラフトチャイなんて作る人はより少ないから、やってみたら面白いことが起きそうっていう直感や期待が初期衝動としてありました」
―打算的なことをいうと、競争率が低そうではありますよね。
「ポップアップを考え始めたときにはそう思ったけど、それ以前に自分がおいしいチャイを日本で飲みたかった気持ちが大きいです」
2020年3月、プロジェクトは3周年を迎えた。“チャイと音楽のある週末”を届けるために今も歩みを進めている。ポップアップはどこに現れるかわからない。木下さんのチャイが飲んでみたくなったら「STAND CHAI ME.」を探して、特別な週末へ。
写真提供/木下寛
イラスト/ネネネ(@neee__pp)