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オリジナル小説・Votumシリーズ-凪いだ海を渡る頃編-

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オリジナルファンタジー小説【Votum】シリーズの、「凪いだ海を渡る頃編」に関するシリーズが入ったマガジンです。 無料でお楽しみいただけます。 ※NOVEL DAYSでも同小説を…
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猫と花とサーカスと

木々の若葉が瑞々しい緑へと変わる頃。
交易都市して栄える港街では、今日も海の外から運ばれた品々を売買する人々の活気あふれる声に満ちている。

そんな喧騒から西に少し離れた一角に佇む、二階建ての宿屋『凪いだ海の宿』。その一階に作られた食堂のカウンター席で、月下人狼のクレバールはうつらうつらと舟を漕いでいた。

天気は快晴。

突き抜けんばかりに澄み渡った空を見たメルが、ここぞとばかりに開け放った窓か

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星降りの丘

冬の入り口、遠く澄み渡る空一面に星が輝く日。それを一望できる丘がある。  

きらきらと輝くものが好きだったオレ――ユルルモンは、その話を聞いた途端にいてもたってもいられない程の興味を抱いた。
すぐにでも見に行きたい――そう考えたのはリュジスも同じだったらしい。
何かと気の合うこの幼馴染みと話す内に、自然と一緒に行く流れになる。  

11歳の秋も終わりかけの頃のこと。  
これまで遊びに行く時は

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頁と頁の間

 ぴくり、とユルルモンの耳が揺れる。流れていく空気の中に、別の音が混じっていた気がしたのだ。
 それを追いかけるようと忙しなく耳を動かしながら、状況を整理する。

 本の中の世界で、「お守り」に籠められていた転送魔法を発動させたのはほんの少し前。魔法が作り出した光の繭に包まれてからしばらくして、暗がりに差し込んできた日差しのような強い光が視界に溢れた。

 耐えきれずに思わず目を閉じた次の瞬間、

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