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第122話:高校生に話す五十音の話
今日はちょっと「音」の話をします。「おっと」(実はダシャレ)いきなり嫌な顔をしましたね。
知らなくても問題ない・・?そうですね。でも、無駄も大事ですよ。
■ガ行鼻濁音
最初に質問しますが、
カ・キ・ク・ケ・コ
ガ・ギ・グ・ゲ・ゴ
の音の違いを説明できますか。
そう、カ・キ・ク・ケ・コ は清音、ガ・ギ・グ・ゲ・ゴ を濁音です。
では、
パ・ピ・プ・ぺ・ポ
を何と言うか知っていますか。知らないですよね。これは半濁音と言うんです。覚えたかったら覚えで下さいね。
そこまでは基本。
じゃあ、
ガ°・キ°・ク°・ケ°・コ°
を何と発音するか知っていますか。
知ってたらスゴイですよ。抱きしめてあげてもいい。オヤジ、馬鹿なことを言うな?だいたいそんなものがあるはずはない?・・いえ、実はあるんです。
試しに、学校と、大学という二つの言葉を発音してみてください。この二つの言葉に含まれる「ガ」は実は違う発音をするのですが、今度は違いがあるという前提に立ってもう一度発音してみてください。
ガッコウとダイガク
今度は「ちょっと違う。ダイガクの方が何だか柔らかい!」と思えたのではないですか?
実は、カ°はガ行鼻濁音といって、ガ・ギ・グ・ゲ・ゴ を鼻から息を抜くようにして、ンガ・ンギ・ング・ンゲ・ンゴと発音します。語の頭にある「ガ」は ガ と発音されるんですが、語中や語尾の「ガ」は カ° と発音されるわけです。だから学校は ガッコウ でですが、大学は ダイカ°ク なんです。
どうです。ちょっと得をしたような気分になりませんか。家へ帰ったら、お父さん、お母さんに言ってみてごらん。「お前みたいのでも、たまには味なことを言う」ってほめられると思いますよ。えっ?ほめ言葉になってない?それは普段からの行いだから仕方ないでしょう。
些細なことですが、ふだん何気なく発している言葉も意外に奥が深いものがあって、今回はちょっとだけ五十音の話をしてみたいと思います。
■日本式ローマ字と標準式ローマ字
遠回りになりますが、ローマ字の話から入って行きたいと思います。ローマ字って2種類の表記があるんですが知っていますか?
僕は土屋ですが、これはローマ字で書くと、
TUTIYA と TSUCHIYA
という二つの書き方ができます。
僕はワープロで入力するときは前者を使い、自分の名前を書くときには後者を使います。名前が付いていて、TUTIYAの方は日本式ローマ字、TSUCHIYAの方を標準式ローマ字と言っています。標準式はヘボン式と言った方がみなさんには馴染みがいいかもしれません。
何が違うかと言うと、日本式では単純に子音と母音が組み合わされているけれども、標準式の方はそうではない。実は、標準式ローマ字では発音が重視されて、音の違いが書き分けられているんです。
では、またクイズのようになりますが、五十音図の中で日本式と標準式の表記が違うものが四つあるんですが、四つを全て挙げられますか?
今、出てきた、つ(TU-TSU)・ち(TI-CHI)の他にあと二つ。
ひとつは、し(SI-SHI)、それからもうひとつ。意外に気が付かないかもしれませんが、ふ(HU-FU)があります。
普段僕らはそんなことには全く頓着しないし、その行の音はみんな同じS・T・Hの音だと思っていますが、これら四つの表記の違いは、この四つの発音が、それぞれの行の中で仲間はずれであるということを意味していているのです。
■タ行の変遷
どんなふうに仲間はずれなのか、それぞれの行で点検してみたいと思うのですが、まずタ行は、
ta・ti・tu・te・to
という音であると僕らは何となく思い込んでいます。
でも現在の「ち・つ」は、ti・tuではなく、実はt∫iとtsuと発音されています。でもタ行音はもともとはすべてtの音だったと言われていて、古代人になった気で極めて適当ですがこれを発音してみると、
タ・ティ・トゥ・テ・ト
くらいでしょうか。それが室町の終わり頃、「ち・つ」の音が現在のように変化して現代に至るわけです。その違いをヘボン式ローマ字が拾っていることになるわけです。
■サ行音の変遷
一方、サ行の音は諸説がありますが、古代では今のようなsの音ではなかったと言われています。例えば、∫という音、これもいい加減に音に出してみると、
シャ・シィ・シュ・シェ・ショ
ではなかったかと言われています(ツァ・・だったという説もあります)。それが次第にsの音に変化し、室町時代の終わり頃に、サスソが変化して、
sa・∫i・su・∫e・so
サ・シィ・ス・シェ・ソ
となり、更にセがsの音に変わり、現代のように
sa・∫i・su・se・so
サ・シィ・ス・セ・ソ
という音になったわけです。
だから、現代のサ行音は∫からsに移行していく途中であって、∫iだけが昔のまま残る変化の一段階にあるわけです。九州では、先生をシェンシェイと言っていたそうです。幕末維新を舞台にしたドラマなんかで聞いたことがありませんか。
ですから、全くちなみにですが、僕を例えば「土屋先生」と言う場合、それは古代の発音では、トゥティヤシェンシェイ と言わなければならないことになります。
何だか壊れた扇風機のように威厳がありませんね。もともとないから大丈夫?全く、そのとおりですね。
■ハ行の音の変遷
さて、ハ行音はもうちょっと複雑な変化を経て現代に至っています。大筋で言うとp→f→ h と変化してきました。何だか嘘のような話だが、最初はpですから、ハ行音は古代では
パ・ピ・プ・ぺ・ポ
と発音されていたわけです。
嘘つくな?嘘じゃないですよ。今はどうか知りませんが、昭和初期でも一部の地域では、葉をパ、火をピと発音していたという調査結果があります。他にもたくさん証拠が挙げられています。
そしてそのpが、奈良平安時代くらいには、
ファ・フィ・フ・フェ・フォ
というfの音に変化します。だから例えば「貝」であれば、カピからカフィに変化したわけです。
室町時代のなぞなぞに、
母には二度合って、父には一度も合わないものは何?
というのがあります。わかりますか?
ノーヒントで分かった人は抱きしめてあげます。嫌?お互い様です。
答えは「クチヒル(唇)」です。父と言ってみてください。確かに唇は合いませんね。今度は母と言ってみて下さい。両方とも一度も唇は合いません。
「ハハ」を現代のようなhの音で言ってみると唇は合いませんが、pの音でパパと言ってみて下さい。合いますね。fの音でファファと言ってみてください。少し微妙に閉じるでしょ。だからハ行音は昔はp・fの音だったんですね。
それにしても古代には母はパパだったんですね。
母とは何と不可思議で偉大ではないですか!
「オフクロさんよ、オフクロさんよ~♪」。歌うな?失礼しました。
そして更にハ行音は、江戸時代には現在のようにhの音に変化することになります。ただ、
ha・hi・fu・he・ho
と、フの音だけがfのまま取り残されて現代に至っているわけです。ひょっとしたら、やがてこのフもhの音に変化していくのかもしれません。そう考えると、音も生き物であることが実感できますね。
ハ行の音はハ行転呼音と言って語の頭と中・尾でもっと複雑な変化をしていますが、あまり細かく言うと君たちは寝ちゃうのでまた改めてします。
こんな事情で「し・ち・つ・ふ」の音はそれぞれの行からはじき出されているわけです。まるで職場で無視されている僕のようだなどとすぐ考えてしまうのは寂しいことですが、こんなふうに日本語の音も移り変わっているんだと考えてみると、ちょっと勉強になったような潤いのある気分になったりしませんか。
・・しない?ねむい?無駄?
いいですか。この間ラジオを聞いてたら沖縄の海人の言葉が紹介されていましてね。タコを捕るとき、タコがツガイでいるときは、メスを先につかまえるんだそうです。オスを先につかまえるとメスは逃げちゃうんだそうですが、メスをつかまえるとオスはくっついてくるんだそうです。一挙両得。どうです。オスって哀れでしょ。
こんな無駄な知識も恋愛をするときには役立ちますね。女性には気をつけなければいけないということですよ。無駄は大事なんです。
はい、終わります。
■土竜のひとりごと:第122話