【シム後記】コクピットにおける権威勾配とエマージェンシートーク
先日、シミュレータ試験がありました。今回のシムをネタにしようと思っていたので記事を書くのが遅くなりましたが、やっと終わったので今回学びになったことを書いていきたいと思います。
今回のキャプテンは、、
今回もいろいろなことが起きました。
今回、相方になったキャプテンは、結構大雑把と言うか、知識もマネジメントもちょっとどうなんだろうと言う人に当たってしまいました。
これまで一緒に組んだキャプテンは、当然ながら、First Officer(FO)の私より知識と経験が豊富で、マネジメントも優れていました。もちろん、そういうキャプテンがミスをすることもありますが、一般的な傾向としてミスをするのは私の方で、キャプテンがそれを拾っていくという景色が展開することが多かったわけです。
人間的には非常にいい人で、ノーマルオペレーションを回すのには非常にやりやすい人なのだろうと思います。しかし、エマージェンシーやノンノーマルを回すのに、FOとして、このキャプテンではちょっと安心できないと言う感じでした。
指揮系統と権威勾配
キャプテンがミスをした時に、FOがそれを進言し、修正することはよくあります。逆も然りです。しかし、キャプテンがFOのミスを直す場合と、その逆の場合とでは、そのやりやすさ、あるいはやりにくさに違いが発生します。
難しく考えなくても、「上司であるキャプテンにズケズケとものをいうのは憚られる」という感覚は、日本人には理解しやすいと思いますが、航空業界では、これを「Authority Gradient(権威勾配)」で説明します。
緊急事態における意思決定を迅速に行うには、責任者を決めて、その決定に従うのが最も合理的です。軍隊に階級制度があるのはそのためです。
民間組織においても、組織として意思決定をする以上、指揮系統が必要ですが、その性格上、軍隊のように上意下達を徹底するための硬直的な階級制度をとることは現実的ではありません。
そこで、この上下関係を上から下への「鉛直なライン」と考えるのではなく角度を持つ坂道つまり「勾配のついたライン」と考えます。そして、この角度、あるいは勾配の大きさによって、そのチームを支配する権威(オーソリティ)の強さを決めます。
こうすることにより、責任の所在を明らかにしながら、より双方向のコミュニケーション、特に下位階級者からのフィードバックを促すことができます。
勾配の調整
さらに、この権威勾配は、場面に応じて適切な角度に調節できると考えます。
勾配を小さくするとき
旅客機には2人のパイロットが乗っているので、FOがPF(Pilot Flying:操縦担当)を行い、キャプテンがPM(Pilot Monitoring:操縦の監視および雑務担当)を行う場合があります。この状態では、コクピットの権威勾配が緩やかである方が望ましいわけです。
なぜなら、飛行機の針路をどうするか、雲をどちらに避けるべきか、ゴーアラウンドした後にどこでホールドするかなど、場面場面の飛行機の行き先に関する判断は、操縦担当たるPFが行うのが合理的だからです。FOがPFとして意思を出すのに、いちいちキャプテンの指示を仰ぐのは非効率的なので、キャプテンは権威勾配を意図的に緩め、FOがインテンションを出しやすい環境を作る必要があります。
勾配を大きくするとき
反対に、安全のために法律を一定程度破ってでもあるアクションを取らなければいけない場合、キャプテンはこの権威勾配を一時的に急角度にすることを求められることがあります。
具体的なエピソードはこちらが参考になりますが、これは本当に状況が切羽詰まった状況で、ほとんど発生しません。また、FOは、もしキャプテンが間違っていると考えた場合、EMARGENCY TALKというテクニックを使ってこれを止める責任があります
FOがエマージェンシートークに及んだ場合、キャプテンは現行のアクションを中断しなければなりません。それでも安全に照らして絶対に今、このアクションを止めてはならないとキャプテンが判断した場合は、続行する権限をキャプテンは留保しています。
もちろん、その後にとんでもない量の書類やインタビューや場合によっては訴訟と格闘しなければならないかもしれませんが、勾配が逆転することは決してないのです。
エマージェンシートークの段階
今回、私がシムで組んだキャプテンは、前述の通りミスが多かったり、私の合意を取らないままに自分のペースで進んでしまったりと、飛行機をチームで飛ばすためにはFOからの積極的なインプットが欠かせない人でした。
こういう人と飛ばす時、適切な権威勾配はもちろん、FO側にキャプテンに「物申す」ための適切なコミュニケーションスキルがないと、飛行機をチームで飛ばすのにうまくいきません。では、それはどういったものでしょうか。
実は、前述の「エマージェンシートーク」にそのヒントがあります。簡単にいうと、「エマージェンシートーク」には段階があり、これに意識的になることで効率的なコミュニケーションを実現します。
次回に続く
追伸
マガジン購入者の方は、一足先にその段階を示すフローチャートを載せました。次回の記事で、このフローチャートを示して説明していきます。
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Pilot's note NZ在住Ashの飛行士論
NZ在住のパイロットAshによる飛行士論です。パイロットの就職、海外への転職、訓練のこと、海外エアラインの運航の舞台裏などを、主に個人的な…
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