離陸と着陸はどちらが難しいでしょうか。
飛行機は、滑走路の端からフルパワーを入れて、脚をつかってステアリングしながらまっすぐ滑走路を走って行き、ある速度に達したところで操縦桿を引けば、浮かび上がるようにできています。
その後、浮かび続けられるかどうかはまた別の話ですが、少なくともこれで「浮かび上がる」ことはできます。
それに比べて、着陸は速度と高度と方向と降下率のバランスを同時に取りながら、滑走路の一点に向かって飛行機を機動させていく繊細な作業です。小型機の訓練でまだ着陸を習っていない学生でも、離陸をすることはできます。ですから、一見、着陸の方が「難しい」と感じるかもしれません。
しかし、私にとって難しいのは、圧倒的に離陸です。キャリアを重ねれば重ねるほど、離陸の方が「難しいな」と感じる人が多いと思いますが、これは「難しさ」の定義が違ってくるためです。
離陸の難しさとは
着陸が「簡単だ」とは言いません。ATRのように着陸後のディレクショナルコントロールがとんでもなく難しい飛行機もあれば、尾輪式の飛行機のように気をつけていないと着陸後にフリップしてしまうような飛行機もあります。
しかし、こういった「難しさ」はテクニック的な難しさです。一般的には飛行機が自分のものになってくれば、風がビュービュー吹いていても狙ったところ(少なくとも一定の範囲内に)に脚を着けられるようになるはずで、パイロットが飛行機そのものに習熟し、それでもうまくいかなければ、後ーアラウンド、つまりやり直せばいいだけです。
私のベースのウェリントン。風が強く「Windy Welly」などと呼ばれます。
しかし、離陸は違います。飛行機の安全を確保するために考えることが非常に多く、知識もジャッジメントも、パイロットとしての総合的な能力が求められるます。
離陸と着陸の最大の違い
離陸の最大の問題は、やり直しができないことです。
ウェリントンの着陸を中から。着陸のやり直し=ゴーアラウンド
ほとんどのパイロットは、離陸中にエンジンが故障する経験をリアルにすることなくキャリアを終えるそうです。ですから、結果的に、毎日の離陸は「簡単に」できて、「問題なく」終わります。
しかし、いつ、なんとき、離陸中にエンジンがぶっ壊れるかは誰にもわかりません。もしかしたら、何十年もの間、パイロットとして一度もエマージェンシーを経験したことがない人がいたとして、そのパイロットが退職する日の最後のフライトの離陸でエンジンがヘソを曲げる可能性だってないとはいえません。
また、地上と「縁を切る」作業である離陸は、重力に逆らって飛行機を持ち上げようとする行為ですから、パフォーマンス的にも、時間的にも余裕がありません。エンジンはフルパワー近くで吠えていて、速度は遅く、地表は近い。つまり、何かことが起こったときに、取りうる選択肢が少なく、かつ、地面に突っ込むまでの時間が短いのです。それでいてやり直しができないってんだからそりゃぁ慎重になる必要があるわけです。
ロトルアふたたび
ではここで、離陸の難しさを具体的に実感するために、アプローチの記事でも見た、ロトルアにまた登場してもらいましょう。
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