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ニュージーランドのパイロットのライセンスの種類と取得の道筋(と雑談)

飛行機のライセンスには、大きく3つあります。

Private Pilot Licence

1つ目は「Private Pilot Licence: PPL自家用操縦士です。このライセンスを取ると、人を乗せることができます*。ただし、お金を取ることはできません。

Commercial Pilot Licence

2つ目は、「Commercial Pilot Licence: CPL事業用操縦士です。このライセンスを取ると、人を乗せて、お金を取ることができます**。また、エアラインのように2人乗りの旅客機のFOになることができます。

Air Transport Pilot Licence

3つ目が、「Air Transport Pilot Licence: ATPL定期運送用操縦士で、エアラインの機長になるために必要なラインセンスです。

1、2、3の順に責任の及ぶ範囲が大きくなり、当たり前ですが、求められる知識も実技の内容も難しくなります。また、CPLを受験するにはPPLを、ATPLを受験するにはCPLをすでに保持していることが条件の1つになります。***

*人を乗せなければライセンスがなくても、インストラクターが紙にサインするだけで、ひとりで飛行機を飛ばすことができます。

**CPLは、ライセンス「だけ」では実は仕事はできません。インストラクターやパラシュートドロップなど、他のレーティングと組み合わせることで、パイロットとして「仕事」をすることができます。

***つまり、CPLはPPLでできることが全て出来ます。ATPLはCPLができることが全てできます。

本項では、以下にニュージーランドでの一般的なライセンスの取得方法について、具体的に説明します。ご興味のある方へ。

一般的なライセンス取得の道筋

ニュージーランドで民間のパイロットになるには、2つの道があります。1つはエアロクラブ、もう1つは飛行学校です。

エアロクラブでは小さい頃から飛行機に親しみ、細く、長く経験を積むことができます。個人的には理想だと思いますが、そういう恵まれた環境にある人は稀です。

飛行学校は、CPLまでのカリキュラムが効率的に組まれていて、留学生を含めた多くの人が飛行学校でラインセンスを取得します。私もそうでした。

車と同じで、飛行機のライセンスを取るには、学科試験と実技試験(フライトテスト)に合格しなければなりません。実技試験を受ける前に学科試験をコンプリートし、所定の訓練を受けて飛行経験を積みます。

参考までに、ニュージーランドでそれぞれのライセンスを取る際に必要な最低総飛行時間と、学科テストの数の例を出すと

PPL 総飛行時間   50 時間 6 教科 
CPL 総飛行時間 200 時間 6 教科 + IR 3教科****
ATPL 総飛行時間 1500 時間 7教科 + BGT 1教科*****

こんな感じになります。ほかにも色々細かい条件があるのですが、ここでは割愛します。飛行時間は、ミニマムで受験することは稀で、技倆の水準をみてインストラクターが判断しますが、だいたい+10%くらいで受験する人が多いです。ATPLはちょっと事情が違いますが、それはまた別の機会に説明します。

**** CPLの取得にIFRは必須ではありませんが、PPL取得後にIFRをやることが多いのでこのような表現にしました。

*****BGT=Basic Gas Turbine knowledge、ATPL受験の要件になっている、ガスタービンエンジンに特化した学科です。面白いです。

まずはPPLから

飛行学校に入ると、まずPPLの座学を受けます。PPLは前述の通り6教科で、授業はだいたい1教科1週間。学科テストは科目ごとに別れていて、各科目ごとに合否が出ます。

内容自体はそこまで難しいものではないのですが、飛んだことのない人が1ヶ月強で全ての学科に合格するのは、わりと大変です。学科テストに合格すると、実技を練習します。並行してやってもいいのですが、ほとんどの学校がPPLは学科と実技を完全に分けています。実技の習得は、学科の片手間でできるほど簡単ではないためです。

入学からPPLのフライトテストまで、天候やスケジュールにもよりますが6ヶ月〜8ヶ月ほど。飛行機の基本的なハンドリングを重視して練習し、フライトテストに合格すると、晴れて自家用操縦士となります。

クロスカントリーからIRそしてCPLへ

その後、クロスカントリー(長距離飛行)の練習でニュージーランド中を飛び回る経験をつけたら、前述のようにCPLの学科と、付随資格であるInstrument Rating: IR(計器飛行証明)の学科を受け、フライトテストを双発機で受験します。これで、ライセンス上は人を乗せて(PPL)雲の中を飛ぶ(IR)ことができます。ここまで10ヶ月ほどで来られれば上出来です。

IRに合格したら、単発機に戻って総仕上げとしてCPLのフライトテストを受験します。だいたい1年から1.5年でCPLと言うイメージでしょうか。

実は、IRの前に「CPLクロスカントリー」といって、CPLの資格についてフライトテストを部分的に受けているのですが、ややこしくなるので割愛しました。

飛行学校で教えられるのはCPLまでです。ATPLの実技(フライトテスト)は、一定以上の重さの双発飛行機(あるいはそのシミュレータ)が必要なので、一般的にはATPLはエアラインに入って経験を積んでから、機長昇格のタイミングでその会社の機材を使って行われます。

ATPLの学科は

現在ではATPL学科の座学コースがある学校が出てきていますが、私が学校を卒業した10年前はまだまだ珍しく、ATPLはインストラクターなど小型機のパイロットとして働きながら、ない時間を絞り出して1つ1つ独学でクリアしていくのが一般的でした。

また、エアラインまで到達するまでの時間が長いニュージーランドです。あまり早く受験してしまうとエアラインでフライトテストを受けるまでに有効期限が切れてしまいます。ちなみに、有効期限は、全教科コンプリートすると10年(法規は5年)です。

ATPL学科テストの受験費用は約2万円ほどで、給料の低いインストラクターには非常に辛かったのを覚えています。普段の業務をこなしながら、独学で勉強し、落ちたらキャリアに傷がつく恐怖に怯えながら、虎の子の2万円を叩いて受験します。

自分で自分をいじめるのに自分で金払ってんだから世話ないよねえ。

KDRの恐怖

学科試験の合格ラインは100点満点中の70点(%)です。割と甘いなと思うかもしれませんが、これが油断できません。採点はパーセンテージなので、質問数が少ない学科や、前後の問題がつながっていると、間違えた問題の数が少なくてもガクンと点数を落とすことがあります。私も、何度胃をキリキリさせながら受験したことか。

合否は、受験から数時間ほどで委託業者ホームページの自分のアカウントに発表されます。

点数だけでなく、間違えた問題は「シラバス番号」として結果シートに印刷されます。これが悪名高い「Knowledge Deficiency Report: KDR」で、要するに「宿題」です。学生は、間違えた問題を「再学習」した成果を、一般的にはレポートの提出という形で担当インストラクターに示し、結果シートにサインをもらいます。

このサイン済みのシートは、フライトテストをするときに試験官に提出し、試験官は実際にKDRの中から数問見繕って口頭で聞いてきます。

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こんな風にたくさん宿題をしたくなければ、ちゃんと勉強しておきましょう。

以上、ニュージーランドでのパイロットライセンス取得の流れでした。本記事について、何か質問等あればこちらから。

以下の有料パートは、ただの雑談です。悪しからず。

雑談

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