ニュージーランドのATPL(パイロットライセンス)が3日で届いた件と、ライセンスの書き換えについて
ATPL(Airline Transport Pilot Licence)は、PPL (Private Pilot Licence)、CPL (Commercial Pilot Licence)の次に現れる、パイロットライセンスの最高峰。このほどライセンスが届いたので、まずはどんなやつか見てください。
左がATPLで、右がCPL。
まったく同じライセンスに見えます。事実、デザインは同じですが、その重みは全く違います。右下のInitial Grantに注目。CPLのライセンスが発行されたのが2011年11月15日で、ATPLが2021年5月7日。実に、10年越しで取得したライセンスなのです。
金縁くらいつけてくれてもいいんですがね。
ちなみに、CPLの右肩が欠けているのは、効力を失わせるために自分でやったものです。
裏はこんな感じで付随する資格が書いてあります。PPL時代からコツコツ貯めたタイプレーティングに今回、DHC-8がやっと印刷されました!
この1文字1文字のために血反吐を吐きながら10年やってきました。
3日で届いた!
申請は上の書類を郵送かEmailで航空局に送るだけ。Emailの方が楽で紛失もないだろうと、全書類をスキャンしてPDFで送付。そしたらなんと、3日でライセンスが届きました。
詳しくはこちらの記事に書きましたが、このライセンスを取れば、それ以上ライセンスのためにあの時間が必要だとか、いついつまでに学科を終わらせなきゃとかそういう諸々のプレッシャーから解放されるので、パイロットにとっては非常に大きなマイルストーンになる免許です。
また、国をまたいでパイロットとして活躍するにも、ATPLを持っていることは非常に有利に働きます。さて、これはどういうことでしょうか。
海外ライセンスの「書き換え」について
どの国でもパイロットライセンスは各国の航空当局が発行する建前になっているので、例えば私が日本で飛びたい場合、法律上、日本のラインセンスを取得しなければなりません。
よく海外ライセンスの「書き換え」と言いますが、厳密には学科と実地(フライトテスト)を受けてその国のライセンスを取得しなければなりません。海外免許を持っていると、そのテストで一部の課目が免除され、テストが簡素化されることは確かですが、決して右から左にライセンスが「書き換え」られている訳ではないのです。
しかし、この免除の度合いがライセンスごとにかなり異なります。
この免除する項目と、以下のシミュレータ(模擬飛行装置)で行うことができる項目を組み合わせると、ATPLの実地試験は、CPLと比べてシミュレータでできることが大半を占めていることがわかります。
できない課目もいくつかありますが、例えば「計器飛行方式による野外飛行」は免除課目になっています。あとはサーキットと着陸を実機でやればいいことになります。参考までにCPLの試験項目を見て見ると、
ほとんどが「A」つまり飛行機で行われなければなりません。そして、野外飛行はCPLでは免除項目に入っていません。
ATPLを取ることの意味
仮に、ある乗員不足の日本の航空会社が、私をエアラインパイロットとして引き抜きたいと考えたとしましょう。
2021年5月7日(NZのATPLが発行)以前は、私が「書き換え」取得するライセンスは事業用操縦士だったわけですから、セスナを借りて野外飛行(A空港から-B空港にいくこと)をしなければならないわけです。航空会社はセスナなんか持っていませんから、それを所有する縁もゆかりもない飛行学校に訓練と試験を委託しなければなりません。それも、業務とは全く関係のない単発ピストンでの野外飛行を、です。
しかし、ATPLを取得した現在の私なら、同じ状況で航空会社が所有する(していなくてもいつも訓練で使用している)シミュレータを使って、野外飛行は免除で、いつも訓練でやっているような基本的な項目をやれば、日本のATPLが取れてしまうことになります。
厳密には、サーキットと着陸がシムでできない(んなあほな)とあるので、一部実機による試験が必要なのかもしれませんし、私の妄想なのでいろいろと見落としがあるかもしれませんが、即戦力のエアラインパイロットを引き抜きたい航空会社にとっては、ATPL保持者のほうがCPL保持者よりもずっと手間が少ないことは確かでしょう。
認可を受けた航空会社なら社内で、訓練の一環としてフライトテストを行って日本のATPLを取得させることができるので、外国人のパイロットを日本で飛ばすためのライセンスの裏口になっているという言い方もできるかもしれません。まさか、外国人のエアラインパイロットに、セスナで野外飛行訓練をするわけにはいかないからです。
皮肉なもんだね
事業用の書き換えの野外飛行が免除されれば、今海外で訓練している日本人には大変な吉報になるはずですが、今の所そのような話はないようです。
このような理由から、アメリカなどには、ATPLライセンスを取得することそのものをビジネスにしているところもあると聞きます。しかし、私もCPLからATPL取得まで10年かかったように、エアラインのFOとして3年経験を積んで、やっと飛行機が自分のものになったと思ったところでやっと受験・合格できた試験です。どちらにしても、エアライン経験が必要かもしれません。
そもそも、私は日本に帰りたくてNZのATPLをとったわけではなく、NZで働く上での、純粋なキャリアプログレッションとして取得したものです。その資格が、日本への資格移動を簡単にするとは、なんとも皮肉なものですね。
昔書いてたブログに、こんな記事がありました。10年前のことですが、電車に揺られていた風景は昨日の事のように覚えています。今回の記事と合わせて読むと何だか感慨深いですな。
出典:
国空航第848号
操縦士実地試験実施細則 定期運送用操縦士(飛行機)
国空航第729号
操縦士実地試験実施細則 事業用操縦士(一人で操縦できる飛行機)
航空法施行規則 第46条の2
航空法施行規則 別表第三
雑談
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