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コクピットで写真撮って怒られたパイロットさんへ

書こうか書くまいか迷ったけれど、どうしてももやもやするので書きますね。

もしかしたらこの記事も炎上するかも

確かに、もう少し慎重になるべきだったかもしれません。タイプレーティングとったばかりで、会社や個人が特定される形でツイッターに投稿したのは、軽率なことだったかもしれません。

この世界は、油断しているとあっという間に足をすくわれるから、用心していなければいけない。したたかにならなければいけない。そのことは、今回のレッスンとしてしっかり自分の中に落とし込めばいいと思います。

失敗は世界の終わりではなく学びの機会

でも、そういうしたたかさは、失敗をして学んでいくもの。私もいろいろ失敗して、結構やばい目に遭ったりもして、自分なんかパイロットになる資格はないんじゃないか、と何十回も思ったことがあります。

失敗は誰でもします。失敗をしたことがない人を、私はむしろ、信用することができません。

しかし、失敗にもいろいろあって、今回のは、非常に悪い形で出てしまった失敗だと思います。話が大きくなり、会社が公式に対応せざるを得なったためです。おそらく、こんなことになるとは思ってなかったのかもしれません。ダメージは大きいし、キャリアに傷がつくかもしれません。そこは、怖いことだけれど、事実として認めましょう。まず「やっちまった」と認める。

しかし、ダメージが大きくても、回復が不可能というわけではありません。

本当に見張り義務の違反なのか

まずは、気持ちに折り合いをつけるために、そもそも今回やったことの何が問題なのか、考えてみましょう。記事によると、撮影は、航空法の「見張り義務」に違反しているとのことでした。

本当にそうでしょうか。

(操縦者の見張り義務)
第七十一条の二 航空機の操縦を行なつている者(中略)は、航空機の航行中は(中略)、当該航空機外の物件を視認できない気象状態の下にある場合を除き、他の航空機その他の物件と衝突しないように見張りをしなければならない。

法律の解釈だから、ちゃんと白黒つけるなら裁判になっちゃうわけだけれど、ここでは私の個人的な意見を述べます。結論は、撮影行為自体がこの法律に違反しているとは言えない、です。

もし、写真を撮るそのごく短い時間、外から目を離すことが「見張りをしていない状態」に該当し、だから法律違反だ、というなら、パイロットは航行中にコクピットの中を一切見られないことになります。当たり前ですが、パイロットの仕事は見張りだけじゃありません。だから、航行中、見張りをしていない時間は、普段から、必然的に存在します。

こう言うと「個人的な写真の撮影は、運航に必要なものではないだろ」と言われるかもしれませんが、これは単なる論旨のすり替えです。

なぜなら、条文に「他の航空機その他の物件と衝突しないように見張りをしなければならない」とあるように、見張りの目的は、何かとぶつからないようにするためですから、この法律に違反しているかどうかは、その行為が運航に必要かどうかにかかわらず、その行為をすることで何かとぶつかる危険を著しく増やすかどうか、で判断されるべきだからです。

アプローチ中に写真を撮ることは、だから、違反でしょう。しかし、IFRでオートパイロットが入って、レーダーコントロールされている空域をフライトレベルでクルーズしているときに、一瞬スマホで眼下の写真を撮ることが、安全の阻害要因になるでしょうか。そんなわけがありません。そんな余裕のないフライト、怖くて乗れません。

つまり、この法律の意味するところは、「一瞬たりとも見張りを怠ってはいけない」ではなく、「IFRでもVMCだったら見張りをすることを忘れるなよ」です。なぜなら、コクピットの外から目を離す時間が存在することは、自明だからです。

だから、私の意見では、操縦者の見張り義務違反を処分の根拠とする国交省の主張はナンセンス、詭弁です。

ちなみに、運航規程にも違反した、という向きがあるので一応触れておきます。スカイマークの運航規程をみたことがないので、確実なことは言えないけれど、「クルーズ中にスマホで目の前の景色を撮ってはならない」などと子供じみたことが書れているSOPが、まさかあるわけないでしょう。SOPの目的を考えれば、そんな限定的、かつ直接的な表現になるわけがない。したがって、見張り義務の違反がないのならば、規程違反にもなりえないわけで、国交省が怒ることはここでもナンセンスだとわかります。

自信を失う必要はない

もちろん、コクピットで写真を撮ることを推奨するわけではありません。確かに、見た目や聞こえはよくないし、アンプロフェッショナルと言われるかもしれない。出し方によっては、会社の価値を毀損する可能性もあります。それは確かです。

だから、やらないことに越したことはないんだけれど、一方で、今回の件は前述のとおり明確に法律に違反しているわけでなく、安全上の実害があるわけでもありません。モラル上の疑義であるわけです。

あなたがここまで来るまでに払ってきた努力と時間、情熱を考えれば、今回の件に対する国交省の対応は、まったくフェアではないと思います。

これは、パイロットにしかわからないかもしれません。だから、もし、今回の件でパイロットとしての自信を失っているなら、その必要はなく、失敗から学べばいいだけだ、ということを言っておきたい。

会社が今回国交省に報告して、懲戒の処分をしたことにはいろいろな見方ができるけれど、これはむしろ幸運かもしれない。理由はここでは書かないけれど、私が言ったようなことを、会社は本当はわかっているんじゃないでしょうか。だから、チャンスをくれたわけでしょう。

あなたは若いし、間違うこともあるでしょう。しかし、あなたは人生を賭して、日本の航空インフラの一端を支える決意をし、実際に努力を重ねて飛行機を飛ばす資格までたどりついた、資質のある個人です。その思いと重みを、会社や国はリスペクトするべきです。

今回の失敗から学ぶと同時に、自分がその人生を賭してサービスをする価値がある場所が現代の日本にあるかどうか、よく考えてみてください。そのうえで、もし日本の空に居場所がないと感じて、ほかに相談できる人がいなければ、私でよければ相談に乗ります。

あえて言いますが、空は、楽しんで飛ぶものです。飛ぶ喜びのないところに、安全な飛行はありません。正確に言うと、安全が長続きしません。

思わず写真を撮りたくなる気持ち、パイロットにとってその気持ちは大切なものですから、恥じることなく、しかし今後は用心して、あきらめずに道を進んでいきましょう。

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