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ATRのシミュレータ訓練が佳境に!
今週は4日間連続でシミュレータでした。
いよいよ緊急時の操作が入ってきて、ラーニングカーブが一気に伸びた感じです。ホテルに缶詰になり、パソコンが使えないのと、文章を推敲する時間がないので、訓練中はツイッターに進捗をぽつぽつ書いていました。
ATRの横風やべえ。25ノットで既にぐにゃぐにゃ。着陸は、ダッシュの癖で前輪着ける前にグランドアイドル入れがちなのと、ラダークソ力で踏んだ状態でかつオーバーコントロールしないようにするのがムズい。離陸は、まくられないように風上エルロン取ると速度計見えなくなって辛い。結局は練習と気合い pic.twitter.com/3KfXArkxgy
— Pilot's note (@soratobonz) June 24, 2021
クロスウィンドへの対処
クロスウィンド(横風)の離着陸が難しいATR。最初は10ノットくらいまでの横風ならなんてことなかったのですが、20ノットを超えたあたりから飛行機がぐにゃぐにゃと落ち着かなくなってしまいました。
コントロールの肝はラダーとエルロンで、それらをどう使うかは上記のツイートのスレッドを参考にして欲しいのですが、要は、適正量が分からずにオーバーコントロールしてしまうので、滑走路上を飛行機がぐにゃぐにゃと蛇行してしまうのです。
何回かやっているうちに、やっと原因がわかりました。
真の原因は視点だった。ずれだしたときに、無意識に近くのセンターラインをそのまま見てしまっていた。反対側の滑走路端を見るようにしたら、1発で止まった。
あまりにも当たり前のことなので、自分では当然、滑走路端を見ているつもりでしたが、無意識にずれたセンターラインに意識を取られて、その結果視線が近くなってしまっていたようです。
また、離陸は離陸で、エアボーン直後に横風に煽られてセンターラインからオフセットしてしまう症状がありましたが、これはエルロンでした。
滑走中はかなり頑張って風上エルロン取ってるんだけど、ローテーションのときに無意識に戻してた。それで離陸した瞬間にぶわっと風下に流されてたみたい。
パイロットインキャパシテーション
横風以外にも、エンジン故障や火災などの緊急事態系が入ってきましたが、面白かったのがパイロットインキャパシテーション、つまり片方のパイロットが操縦不能になる事態を想定したやつ。
キャプテンが「特大のハートアタックになった!」と。どこまで現実的なのさ、と思ったけども、キャプテンが意識不明になったらどうしよう、ってのはたまに考えていたのでまあそれを試すいい機会だと、張り切って「料理」を開始した。まずはAPを入れてスピード、フライトパスを確認、
— Pilot's note (@soratobonz) June 29, 2021
隣でひっくり返ってるキャプテンの座席を最後尾まで下げて、シートベルトをロック、操縦桿とペダルから彼を遠ざける。も一度パフォーマンス確認して、出しっぱなしになってるパワーやらフラップやらを片付けて一息。メイデイ入れて、レーダーベクターを要求、ここでキャビンクルーをひとり呼ぶ。
状況を説明してキャプテンのケアに当たらせ、あとはアプローチスピードをマニュアルで出して、下ろすだけだ、と思ったところで「しまった、こいつはダッシュじゃねえんだ、チェックリストが山ほど残ってるぞ。。」
とは言え、時間はまだまだある。速度よし、トラックはベクター、周りに高いテレイン(山)もない。ILSを要求して、行けそうならビジュアルで降りようと計画を巡らせ、ナブ周波数をセット、たまっているチェックリストをひとつひとつ片付けて、暇になったので、キャプテンに声をかける。無言。
お客さんにオペレーション上の問題により引き返します、安全には問題なく、会社には後の対応要求済です、スミマセン、と告げたところで、雲が切れて滑走路が見えた。今はワイドダウンウインド、つまり着陸する滑走路の反方位をいつもより広く、かつ高く飛んでるから、
あとはビジュアルで180度回って降ろすだけだ、キャプテン無事だといいなと思ったところでシムが止まった。
やるべきことがわかる感覚
ツイッターに書いた時は、このときのインストラクター側の評価と自己評価の差異を面白がったものでしたが、今思うのは、この時の自分にやたらと余裕があったな、ってことです。
突然発生した緊急事態で、その後のシナリオも言ってみれば「投げっぱなし」のお題を与えられたにも関わらず、頭のスペースには常に空きがあるような状態でした。今なにをするべきかが完全にわかっていて、その方法もわかる、というものでした。つまりは、Situational Awareness(SA)が高いレベルで維持できていたということですが、私の場合、飛行機の訓練でこのように余裕が出てくることはあまりなかったことです。新しい飛行機には、いつもいつも、苦労してきました。
特に、初めて2名のパイロットで飛ばす飛行機であったダッシュ8の訓練では、すべてが新しく、覚えることが多く、かつ訓練の時間は限られていました。オートパイロットのボタンをぽちぽち押しながら飛行機を操縦していくのも初めてで、「飛行機を身体で覚えること」以外に習熟するべきことが多すぎたため、とても苦労しました。
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ところが、今回のATRの訓練は、プロシージャトレーニングの時から歯車がうまくかみ合っているというか、常に2歩くらい先を歩いているような感じで訓練がうまく進んでいます。クロスウィンドに苦労している、といっても、逆に言えばそこだけなわけです。フライト全体が破綻しないので、できないことがあってもそれが全体的な評価に影響しません。そして、シムの訓練時間を純粋に飛行機の物理的な挙動に慣れるために使うことができます。
そうすると、その弱点の改善も早くなるので、次のレッスンに進んだ時に、新しいことを学ぶための余裕が生まれます。ですから、たとえ何かを間違えても、指摘された内容をその場で頭に叩き込むことができ、同じ間違いを繰り返しません。ポジティブスパイラルですね。
これはひとえに、ダッシュで経験を積んだおかげでしょう。石の上にも3年と言いますが、これまでやってきたことは間違っていなかったようで、嬉しく思います。
ダッシュの経験で最も役立ったこと
特に、直前にATPL試験をやったことが大きいと感じます。
タイプレーティングは、特定の飛行機の操縦資格を取るための訓練・試験ですが、直前にダッシュでATPLをやったことで、IFR全般の復習と、PICとしての視野で問題の起きた飛行機を無事に降ろす経験を積むことができました。
自分の責任で1から10までやってみると、どこで飛行機が忙しくなるか、よくやらかした失敗は何か、どこでいつ何を気をつけていればいいのか。そういうことが、俯瞰できるので、何が来ても大丈夫な感じになります。
自分でフライトを仕切りながら、その通奏低音のもとで新しいプロシージャや操作方法を学ぶ、というとなんだか大変に聞こえますが(大変ですけど)、むしろその方が新しいことがちゃんと頭に入ります。周りのフライトが破綻していると、そのマネジメントだけで頭がいっぱいになり、新しいことを学ぶ頭のスペースが確保できないからです。
ブリーフィングの受け方と、教官の「使い方」
プロシージャトレーニングから雲行きが怪しくなってきていた相棒のドム(仮称)ですが、シムに来てやはり苦労しています。
曲がりなりにもダッシュのFOとして飛んで来た人なので、箸にも棒にもひっかからない、と言うことではないのですが、勉強の仕方が下手で、特にプロシージャやフレーズを正確に覚えられていないことと、FMSの打ち方を何回やっても間違えたりしています。
彼を見ていると、疑問をその場で解消し、自分が完全に満足するまで練習をしつこく繰り返すことの重要性を、改めて感じます。彼がブリーフィングで教官に質問しているところを、ほとんど見たことがありません。おそらく、自意識が邪魔をしているのだと思いますが、これでは上手くならないのも当然です。
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