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コマンド昇格に向けて普段から意識していること

入社時期が近い連中が、だんだんとコマンド、つまりキャプテン昇格をしている。かつて飛行学校で一緒に働いていたあるインド人も昇格を果たし、つい先日一緒に飛んだ。昔の同僚と一緒に飛行機を飛ばすというのも、なんだか変な感じだった。

私はというと、飛行機を変えたばかりなこともあり、横から見ていてまだまだ勉強のしどころがたくさんあるなあと日々感じている。もう少し自信をつけてから臨みたいところだ。

その自信は、どうすれば得られるかはもうわかっていて、日々のフライトでそれを体得しようとしている。しかし、言うは易し、行うは難し。単純なことでも、なかなかこれが簡単にはいかない。ラインに出ているので、落第点ではないけれど、つっつかれてやっと気が付いたことや、失念していることがあったりすると、まだまだだなと思う。

Undesirable Aircraft States

Undesirable Aircraft States(UAS)は、ATPLの勉強をしていた時に、オーストラリアのヒューマンファクターの教科書に出てきて初めて知った言葉。

Undesired aircraft states are defined as ‘flight crew-induced aircraft position or speed deviations, misapplication of flight controls, or incorrect systems configuration, associated with a reduction in margins of safety”. Undesired aircraft states that result from ineffective threat and/or error management may lead to compromising situations and reduce margins of safety in flight operations. Often considered at the cusp of becoming an incident or accident, undesired aircraft states must be managed by flight crews.

出典:Sky brary

直訳すれば「望まない飛行機の状態」だが、要するに飛行機がちょっと「やばめ」の状態になることだ。これは、システムが壊れてと言う意味ではなく、パイロットの操縦とその結果としての飛行機のパフォーマンスの状態が「やばく」なることを指す。エンジンが故障しても、パイロットがちゃんと飛行機を飛ばしていれば、UASにはならない。

逆に、飛行機のシステムが完璧に作動していたとしても、飛行機の姿勢やエアスピード、対地高度や降下率など、飛行機のパフォーマンスが本来あるべき範囲から逸脱したり、逸脱する傾向を見逃したりすると、それはUASとなる。

左席に座って、一機を任される者に必要な能力のひとつは、飛行機を、絶対に、UASに入れないこと。よしんば、万が一、入ってしまったとしても、その入り口で直ちに回復させることだ。

操縦技量あるいは技倆

ここで難しいのが、UASは操縦が上手ければ発生しないかと言うと、そうではない点だ。確かに、最終アプローチなど繊細な操縦が必要とされる状況で、操縦技量が不完全、平たく言えば「下手くそ」である結果、許容範囲を逸脱するということはありうる。

しかし、Normal Ops(通常運航)の範囲内では、そういうことにはなりづらい。風のリミテーションは決まっているし、ちゃんと集中してやれば、目と手と足が動く限り飛行機をUASに入れてしまうことはあまりない。仮にあったとしても、それは練習すれば着実に上手くなることができる。つまり、比較的対策が簡単な話であり、あえて「技量」と表現できる。

ところが、マネジメントや知識に不足があった結果として、飛行機のスピードが増えすぎたり、降下率が高くなりすぎたり、バンクが大きくなりすぎたりして、UASが発生することがある。こちらは、対策が難しい。

ある状況への対処を間違えた結果、そのしわ寄せが飛行機のパフォーマンス逸脱(UAS)として現れるのだから、その「間違えた対処」を改善しなければならないが「ある状況」は無限にあるから、全て練習することができない。結局、自分で痛い目を見て学んでいくしかない。こちらはあえて「技倆」と表現したい。

先日、こんなことがあった

オンルートのアイシングと揺れを回避するために、高度をあげる選択をした時のこと。クリアランスをもらって、高度を変える準備を始める。パワーをクライムパワーにセットして、オートパイロット(AP)のモードを変更する。

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