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ATRのシミュレータ訓練に突入!

今週に入っていよいよ本格的にシミュレータ訓練が始まりました。

今まではプロシージャのみでしたが、シムは基本的に実機と同じように扱いますから、操作するスイッチは実際のものですし、操縦桿をつかって飛行機をコントロールしなければなりません。プロシージャを立て板に水のように喋るだけじゃだめってことですね。

先回も書きましたが、今まで乗っていたダッシュ8とATRでは、大小様々な違いがあります。今回はその違いをさらに掘り下げていきましょう。

トグルスイッチの仕様

オートパイロットのことをAP(エイピー)と言うとか、オーバーヘッドパネルのトグルスイッチのON/OFFが逆(下図参照)だとか、そういう小さな違いが意外と面倒なのです。

*基本的に、ボーイングやボンバルディアなど、北米製の飛行機はスイッチが全て窓に向かって「ON」になるのに対し、エアバスやATRのように欧州製の飛行機は指を上にフリックするのが「ON」になります。

Screenshot_20210619_211611_jpg_と_IMG_0101_jpg

上図オレンジの矢印の方向がON
スイッチの操作なんか、ダッシュの仕様に指が慣れているもんだから、最初のうちはライトをつけたつもりで消していることも。

英語で「Unlearn」といいますが、運動神経に刷り込まれた習慣を「忘れる」のは難しいものです。これは、慣れるしかありません。

トリムの仕様

同じように、ダッシュとATRではトリムの操作インターフェースが違います。ダッシュはトリムホイールで、ATRがトリムスイッチです。

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青い矢印で指したのがダッシュの「トリムホイール」で、大ぶりの皿のような形をした円盤が、左右一対でつながっています。右を回すと左も同じ分だけ回るわけですが、操縦桿を支えるプレッシャー(舵圧:だあつ)を、これを回すことで抜くことができます。

例えば、上昇するために機首を上げようと、操縦桿を右手で後ろに引っ張って支えているときに、左手でこの円盤を後ろに回すと、手に感じる力が小さくなっていき、あるところで完全にゼロになります。そうすると、上昇の姿勢をとったまま、操縦桿から手を離すことができます。

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この作業を、トリムを取る、と言いますが、トリムホイールはその最も基本的な仕様で、円盤を回すことで「タブ」と呼ばれる小さな舵を動かして、飛行機にはたらく力のバランスを取るように作用します。小型機にも同じようなものがついています。

豚トリムホイール

これに対し、トリムスイッチはこれを操縦桿についた電動スイッチでやろうというもので、新しい飛行機によくついています。初期訓練に使うような小型機でも、最近では電動トリムスイッチがついていることが珍しくありません。

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パイパーアーチャーのトリムスイッチ

ATRもトリムスイッチなのですが、こいつのメリットは操縦桿を両手で支えた状態で、トリムを取ることができることです。「操縦桿」と言っていますが、正確には「操縦舵輪」といって、両手で持てるように「W」のような形をしています。当然、両手で持った方が安定して飛ばすことができます。

しかし、私はトリムホイールに慣れているのもあって、いまだに左手が膝の横の空間をさまよってしまうことがよくあります。そこにもう皿はないというのに。

エレクトリックチェックリストの弊害

運航に欠かせない「チェックリスト」の仕様も大きく違います。

ダッシュ8では、チェックリストはA5サイズのカード一枚に収められていて、非常にコンパクトでした。というのも、このチェックリストは、FCOM(Flight Crew Operations Manual)と呼ばれる航空機の製造会社が公式に出している飛行機の「取説」を参考に、運航会社が独自に作ったものなのです。

飛行機を使う側の方針で「これを忘れたら安全に影響が出る」というアイテムだけを厳選してチェックリストに載せ、あとはパイロットが訓練で「サイレントドリル(黙ってやる操作)」を覚えて行う仕様にしていたので、チェックリストそのものが非常に短くなっています。通常のターンアラウンド(便と便の間)で使うチェックリストはこんな感じでした。(カッコ内は項目数)

DHC-8
Before Start (7)
Start (4)
After Start (4)
Before Takeoff (5)
Climb (3)
Approach (3)
Landing (5)
合計7チェックリスト、31項目

これに対し、ATRのチェックリストは紙ではなく、製造時に飛行機のプログラムに組み込まれていて、コクピットのLCD画面に電子的に表示されます。

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ソフトウェアのアップデートはありますが、基本的には製造会社が考えたチェックリストをそのまま使っています。

これをエレクトリックチェックリストと言って、緊急事態では飛行機がパイロットの代わりに故障診断をして、必要なチェックリストを自動的に提示してくれるので非常にありがたいのですが、通常運航時には足枷になることもあります。項目が多すぎる上に、変更が容易ではないからです。

ATR72-600
Final Cockpit Preparation (9)
Before Propeller Rotation (7)
Before Taxi (9)
Taxi (4)
Before Takeoff (10)
After Takeoff (6)
Descent (5)
Approach (4)
Before Landing (7)
After Landing (8)
Parking (18)
合計11チェックリスト、87項目

ダッシュとの違いは一目瞭然です。現場としては、チェックリストは短ければ短いほどいい。ダッシュはそのオペレータとしてのミニマリズムが前面に出ていましたが、ATRのこのボリュームには辟易してしまいます。

また、ATRの「Taxiチェックリスト」と、「Before Takeoffチェックリスト」に注目。 動きながら画面に目を落とすTaxiチェックリストは、個人的にはスレットだと考えます。また、離陸直前に10個も確認項目を設けるのは、滑走路上でモタモタしたくないパイロットの気持ちを全く理解していない人が作ったチェックリストだと言わざるを得ません。

だからと言って、エレクトリックチェックリストはプログラムですから、現場の要望に合わせて書き換えるわけにはいきません。なにしろ、このチェックリストは画面上の項目一つ一つをボタンを押して消していかないと、次にいけない仕様になっているからです。この融通の効かなさが、コンピュータ化が進んだ飛行機の弱点の一つといえるでしょう。

トレーニングは始まったばかりですが、色々と対応しなければならない違いが出てきて大変です。

まっ、がんばっていきまっしょい。

雑談:レッスン1


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