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安全と定時を確保しながら、少ない経済的犠牲で快適性を買った話。

安定快経なんていいますが「快適」と「経済」は結構トレードオフにかけられるようですね。今回は、少ない経済的犠牲で快適性を買った話をして見ます。

まず、先日のウェザーです。

当日の概要

西の海上に温暖前線を伴った低気圧があって、それがゆっくりと南下してきています。南半球の低気圧は時計回りなので、低気圧の東側にあるニュージランド上空はこの日北東風が強め。しかし、等圧線の間隔が広いことを見てもわかるように気圧勾配が緩やかで、積乱雲のようなシビアな天気というよりは、べったりとした雲が東の海から流れ込んでくるような状態です。

この日飛んだルートをかき入れると、こんな感じです。

低気圧に伴ってアイシングやタービュランスの予報がたくさん出ていました。特に、北島全域にモデレートタービュランスがの予報があり、しかも多くの飛行機が巡航高度にする「FL140/FL380」という高度帯で出ていたので、ちょっと気になっていました。

タービュランスの種類

モデレートタービュランスってどのくらいかというと、「ベコベコベコ・・ベコッ!ベコベコベコ・・・・ベコッ!ベコベコ・・」って感じですかね。継続的に揺れて、たまに「おっと」くらいのが混ざる。

ライトタービュランスってのは「コツン・・・・・・コツン・・・・・」と断続的で、揺れも軽い。

シビアタービュランスは、「ドガガガん!ドガ!ドガシャーン!」みたいな暴力的な揺れで、失速警報が鳴ったり、コーヒーが宙を舞ったり、飛行機のコントロールが一時的にでも困難になるレベルの揺れです。

予報はすべてモデレートで、ほとんどのものは「SFC(地表)/6000ft」などと、低高度でのタービュランスを示していました。これは、あまり問題にはなりません。離陸後の上昇中や着陸に向けた降下中は、基本的にシートベルトサインをつけて、比較的短い時間、我慢して突っ切ればいいからです。

しかし、問題は上空のもの。これはつまり、巡航中に長時間にわたってベコベコベコベコ揺れる可能性があるということです。

嫌だなあ。

心の声

揺れた往路

実際に飛んで見ると、北上する往路では、案の定北島に差し掛かる少し前くらいから揺れだして、それ以降ずっとベコベコベコベコしていました。

ベコベコベコベコ

この経路ではだいたいFL170-FL210くらいを飛ぶことが覆く、この日、コンピュータがはじき出した最適経済高度(上空の風、飛行時間、燃料消費の最適な組み合わせ)はFL190。フライトプランがはじき出したFL190を飛んで行く、往路担当のキャプテン。

キャプテンは物静かで巡航中はずっとマニュアルを読んでいるような人でしたが、北島に入ってからは揺れのおかげで本が読めなくなりました。高度をFL170に下げてみましたが、予報が「FL140/FL380」でしたから、その程度の高度変更では揺れはおさまらず、フライト後半はずーーーーっとベコベコベコベコしていました。

この巡航中のモデレートな揺れってやつが結構厄介で、シートベルトサインをつけて突っ切ることに安全上の問題はない一方、長時間続くと快適性が著しく落ちます。一番前に座っている私ですらちょっと気持ち悪くなるくらいでした。

もうちょっとやりようがあったんじゃないかな。

心の声

到着地への降下中、揺れが収まったのがトランジションレイヤー(NZでは13000ftからFL150の間)を過ぎてからで、復路を担当する私は、もう一度またあの揺れの中に行くのは嫌だと思いながら、頭の中で復路の高度の計画を立て始めました。

復路

復路のターンアラウンド(到着してから次の出発まで)は30分。往路の情報をそのまま直接活かせるのは、国内往復便の強みです。

私の作戦はズバリ、途中まで10000ftを這って行くこと。

予報が、FL140より上でタービュランスと言っていて、実際に飛んできた感じでもそれは当たっていました。今日、北島上空ではどこを飛んでも14000ft以上はあの揺れなのです。ですから、そもそもその高度で飛ばなければいい。降下中、タービュランスが消えてスムースになったのはそれより下の10000ftくらいからだったので、思い切って最初の巡航高度を10000ftにしようと考えました。ちょうど富士山の高さくらいです。

通常、我々が飛ぶのはフライトレベル(13000ft以上の高度)以上なので、かなり思い切った作戦と言えます。

低く飛ぶときの注意

この時、考えなければいけないのが、燃料消費です。

高度が低くなると、空気が濃くなるのでその分抵抗が増えます。ですから、同じルートを低く飛ぶと、燃料消費は大きくなります。往路の降下中にすでにそのことが頭にあったので、ターンアラウンドでの給油量を計画より100kg増やすようにカンパニー無線で地上に伝えてありました。

また、前述のように低気圧の影響でこの日は上空の風は北寄りの風だったので、復路では追い風ということになり、低く行くことによる燃料消費の増大を、追い風で相殺できるから、そこまで燃料消費も変わらないだろうというハラもありました。

結局、北島を縦断する間中、10000ftで飛行し、タービュランスのほとんどを回避することができました。

上空では通常通り160とか170で飛んでいる飛行機が、タービュランスを回避しようと高度や針路を変えている無線が聞こえましたが、我々はスムースな気流の中を気持ちよく飛ぶことができました。

カピティ島。いつもより近い!

南島に入ってからは、徐々に高度をあげてFL160とし、燃料を節約しました。

結果、到着はオンタイムで、往路と比べた燃料消費の差は100kgちょい。その燃料で、快適性を「買った」ということになりますが、フライトの半分以上をベコベコ揺らすくらいなら、乗客も会社もハッピーでしょう。

さて、以下の有料版では上記で言及した資料を具体的に示しながら、もう少し深掘りしていきます。

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