予算とスケジュールから企画の『規模』を掴もう(ノベルゲーム制作講座 08)
・ゲームの規模は、予算とスケジュールから逆算できる。
・予算2,000万円だと、フルプライス作品が12ヶ月後に出る。
・企画屋は、プロデューサー、ディレクターの『目』を養おう。
前回まではノベルゲーム制作における
『予算の考え方』と『スケジュールの把握』について、説明してきました。
今回は企画の『規模=ボリューム』についてみていきます。
■ノベルゲーム開発の実例
企画の規模は、『予算』と『スケジュール』から決まります。
例えば、予算が『2,000万』だった場合……
予算『2,000万円』の ノベルゲームの仕様
・攻略可能ヒロイン:4人
・シナリオテキスト容量:1.8M
(1ヒロインあたり、400KB + 共通パート200KB)
・主人公以外、フルボイス
・CG枚数:100枚前後
(1ヒロインあたり20枚 + SDイラスト20枚)
フルプライス(¥ 8,900 )の企画になります。
開発期間はおよそ11ヶ月、発売時期は12ヶ月後になります。
予算『1,000万円』の ノベルゲームの仕様
・攻略可能ヒロイン:2人
・シナリオテキスト容量:900K
(ヒロイン2人 + 共通パート)
・主人公以外、フルボイス
・CG枚数:50枚
(1ヒロインあたり20枚 + SDイラスト10枚)
ミドルプライス(¥ 5,800円 )の企画になります。
開発期間はおよそ6ヶ月です。(発売は7ヶ月後)
予算『400万円』の ノベルゲームの仕様
・攻略可能ヒロイン:1人
・シナリオテキスト容量:450K(ヒロイン1人)
・主人公以外、フルボイス
・CG枚数:25枚
(1ヒロインあたり20枚 + SDイラスト5枚)
ロープライス(¥ 2,980円 )の企画になるでしょう。
開発期間はおよそ4ヶ月です。(発売は5ヶ月後)
上記はあくまで一例なので、予算の内訳は会社によって異なります。
ミドルプライスでも、フルプライスの予算で作ってる現場もあります。
ロープライスの予算でフルプライスの作品を作らされていたら
ブラック案件なので、手を引いた方が賢明でしょう(真顔)。
1章前半の記事にて、ノベルゲーム制作の流れを解説しました。
その中で、企画兼ライターがノベルゲーム制作に携わった場合、
最低でも10ヶ月間、企画に従事していることがわかりました。
1.8MBのシナリオのノベルゲームの制作に
11ヶ月~12ヶ月かかる、という試算はここからきています。
(実際に空下が関わった案件でも、それくらいかかった)
■開発スケジュールと予算のお話
お次は人件費、お賃金、報酬のお話です。
個々人の契約内容はさすがに開示できませんが、
それでは『予算感』が掴めないので、
わかりやすく時給1000円で人件費を計算していきましょう。
平日20日 × 8時間労働 × 1000円
= 月給 160,000円
月給 160,000円 × 10ヶ月
=1,600,000円(160万)
となります。
もしも開発メンバーが10人いた場合、
(おおざっぱに計算して)開発費用として1600万かかるわけです。
ゲーム会社の多くは能力給&裁量労働制であり、
素材を外注に依頼することも多いため、時給換算は難しいでしょうが、
大まかな『予算感』は掴めるかと思います。
※ 目安として時給1000円にしましたが、
実際はもっと貰って……ます。(たぶん)
■企画規模から、企画内容も決まっていく
ゲームを一本作るのにかかる費用は人件費の他にも、
事務所の光熱費や宣伝費、DVDのプレス代、
限定版の制作費などもかかります。アフレコの費用も馬鹿になりません。
おや、2,000万円では足りない気がしてきましたね。
人件費を削る(時給ではなくて、スケジュールを詰める)か
規模を抑える必要があるようです。
そんなわけで「本来は10ヶ月でやる作業量だが、8ヶ月でやれ!」と
現場が無茶ぶりされるわけです(ご無体なー)。
当然、現場から「無理ゲー」という意見が出てくるので、
「2,500万おくれ!」と、クライアント(様)に交渉します。
そして、当然ながら交渉は決裂します(ええー)。
「だったら、ヒロインの数は維持してシナリオ容量を減らそう」
「アフレコとスクリプトを同時進行で行い、納期を繰り上げよう」
「事前にグッズを売って開発費の足しにしよう」
といったように、企画の規模から内容が限定されていったり
予算をやりくりしていくことになります。
予算はプロデューサー、スケジュール調整はディレクターのお仕事ですが、
彼らの作業を手伝ったりして『感覚』を養っておくと、
現実的かつ中身のある企画が書けると思いますよ。
■商業ラインの売り上げと規模の関係
商業作品の場合、クライアントから借りたお金は
商品=ゲームの売り上げから返します。
利益をそのまま渡すわけではなく、売り上げから諸経費を引いたうえで、
ショップ、流通、ゲーム制作会社(自分たち) で分配します。
内訳は秘密ですが、およそ4~6割が制作会社に入ってきます。
会社から入ってきたお金でクライアントへの借金を返済し、
残ったら次回作の資金としてプールします。
ですので、売り上げが厳しめだと資金は底を突く……
というかマイナスになります。
借金が返しきれないからね。当然だね。
では、どうするのかと言うと、イベントに出店してお金を稼いだり、
ダウンロード販売などをして、どうにかお金を集めます。
どうにかならないと普通に会社が潰れます(マジトーン)
聡明な読者さんならおわかりでしょうが、
フルプライスのPCゲームは、8,900円(税抜き)です。
制作費が2,000万かかった場合、5割前後が会社に入ってくるとして、
5,000本以上(以上がポイント)は売り上げないと借金は返せません。
現状(2019年)、1万本売れればヒット作と呼ばれます。
(2000年代は10万本がヒットの目安でした)
5,000本は、実現可能そうでなかなか難しいギリギリのラインです。
利益をださないと会社としてはゼロ点なので、
せめて5,000本以上は売り上げる作品を世に出したいものですね。
■規模を自由に設定したいなら同人もあり
「結局金かよ!」「夢がない」と
お嘆きの方もいらっしゃるかもしれませんが、
商業で作品を発表する以上、お金がらみの制約からは逃れられません。
「ヒットを飛ばして左うちわ。勝ったながはは!」とならない限りは、
『赤字にならない(できれば黒字に)企画を作らねばならない』
ことを念頭に置いてください。
なぜならアナタは、開発会社に勤める1人の会社員だからです。
商業ゲームと同人ゲームの間に優劣はありません。
自由に作品を創りたいなら、同人イベントでゲームを発表するのも手です。
もちろんお金がないと食べていけないので、覚悟は決めてください。
■一度問題点を洗い出してみよう
解説した内容を踏まえたうえで、
実際に『予算』と『スケジュール』をまとめてみましょう。
具体的な数字が出せない場合は、
おおよで良いので必要な開発資金を計算して、発売”希望”日を書きます。
躓きやすいのが「来年のことなんてわからない」などとほざいて(失礼)
考えるのをやめること。(めんどくさいですしね)
そういった場合は
「予定がわからないのは何故か?」「どうして予算が組めないのか?」
といった問題点を洗い出して、具体的な解決策を考えましょう。
例)必要開発資金:150万 / 開発期間:およそ1年
貯金300万の内、100万を同人ゲーム開発費に使用するぞい。
親に頭を下げて、残りの50万を工面しよう。
対策:本業で稼いで返す。
問題点:本業が忙しく来年の予定が立てられない(本末転倒)
⇒ それは何故?
⇒ 仕事(本業)が忙しいから。余暇が一日2時間しかねぇっす。
⇒ なら、そもそもゲーム開発は無理ゲーなのでは?
⇒ さらに対策 : 毎日1時間だけ作業時間にあてる。
3年計画でゲームを作る。
⇒ 3年計画なら、親から借りずに貯金すれば足りるかも……
などという感じで、現実的なプランを立てられます。
■まとめ
ゲームの規模は、予算とスケジュールから逆算できます。
プロジェクトの規模に見合った企画を練らないと、
その『夢』は実現できません。
理想と現実の狭間で苦しむのはいいですが、
悩んでいる間にお腹も減るので、前を向いて現実と戦いましょう。
企画の「おもしろさ」が保証されているなら、
予算やスケジュール、導入可能な素材の数が制限を受けても、
根っこにある「おもしろさ」は揺らぎません。自信をもってください。
今回の講座で企画の基礎の基礎のお話は終了。
次回から企画作りがついに始動。
実例を踏まえつつ、企画会議の内容について詳しくみていきます。