聴けない曲
どうしても聴けない曲がある。
いくつも。
それらの曲はお気に入りである以上に、
私にとってのタイムカプセルだ。
それらの曲を頻繁に聴いていた過去に
自分が目にしたこと、耳にしたこと、感じたことが
そこには全て詰まっている。
あらゆる感情が閉じ込められている。
私は、私だけの、その曲のコピーを持っている。
そんな曲を聴いてみる。
何年も前、同じ曲を聴いていたときの自分が、
今を生きる自分とぴったり重なって、
ぶわっと宿る。ふしぎな現象。
自分でも記憶していない些細な感情、思考、
情景が一気に蘇る。
うろ覚えだが、確かメンタルタイムトラベルと
呼ばれたりもするらしい。
でも、何度も再生していると、
だんだんと曲の方が今の自分に
追いついてしまって、
曲を聴いた瞬間に溢れ出す思い出のフィルムが
真っ白になってしまう感じがする。
だから聴くことがためらわれる。
何度聴いてもその曲が好きであることに
変わりはないけれど、
ずっと聴いていると、
長い空白期間を経て聴いた、あの最初の瞬間と比べて、
ずいぶんと立体感を失って、のっぺりとしてしまう。
そしてなかなか元に戻らない。
まだ上書き保存はしたくないのに。