生々流転
📘『生々流転』
岡本かの子 1940
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遁れて都を出ました。鉄道線路のガードの下を潜り橋を渡りました。わたくしは尚それまで・・・袂の端を掴む二本の重い男の腕を感じておりましたが・・・だんだん軽くなりました。代りに自分で自分の体重を支えなくてはならない妙な気怠るさを感じ出しました。これが物事に醒めるとか冷静になったとかいうことでしょうか。
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蝶子は丘陵地にある学園に通う少女。園芸助手の葛岡や資産家の池上に慕われるが、彼らからは、それは恋というより、彼らに足りない「いのち」のちからを蝶子に求めてのことだった。葛岡と交際していた体操教師の安宅は、彼との関係を拗らせて故郷へ戻ってしまった。蝶子はこれを追った。安宅は「実はあなたのような少女になりたかった。」と蝶子に打ち明け、蝶子の目の前で氷結した湖に姿を消す。自分も迷いが深いのに、なぜこのように人から願われるのだろう、と悩んだ蝶子は、確執のあった母の死をきっかけに家を出て、偽乞食となり彷徨っていく。大きな河の流れに添って、くだっていくように。
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運命は河の流れ。河は下流に行くほど豊かになる。蝶子は様々な人と触れ合い、「生」を充実させていく。
だが、その「生」はいずれ「死」を迎える。
「河」はついには海に至る。寄せては返し、返しては寄する浪。
永劫尽くるなき海の浪。
・・・蝶子は海に至る。
「墓場のない世界──わたくしが川より海が好きになって女船乗りになったのはそれからです。」