ベロ出しチョンマ
ベロ出しチョンマ
斎藤隆介 作
滝平二郎 絵
1967
千葉の花和村に「ベロ出しチョンマ」という玩具がある。
チョンマとは長松が訛ったもの。
背中の輪を引くと舌を出す。誰でも思わず吹き出さずにはいられない。
十二歳の長松は三歳の妹ウメが泣くと、眉毛を八の字に下げ、
ベロを出して間抜けた顔で妹を笑わせていた。
天災で苦しんだある年、百姓達は年貢をもっと出せと要求され、
生きる道がなくなる。長松の父親は将軍の所へ直訴した。
そこで、長松一家は死刑を求刑され、村人が悲鳴をあげる中、
ついに刑場で高い磔柱に縛られた。
突き役がウメの胸の所で槍の穂先を組み合わせたとき、
ウメが怖くて泣き叫んだ。
その時、長松は妹を慰めようと、
「ウメーッ、おっかなくねぇぞォ、見ろォアンちゃんのツラーッ!」
と叫んで、ベロを出しておどけた。
そして、ベロを出したまま槍に突かれて死んでしまった。
この悲劇の物語はいまでもある「ベロ出しチョンマ」という
玩具の由縁でもある。
斎藤隆介とその文学の真髄を引き出した、滝平二郎の切り絵。
このコンビの作品「モチモチの木」は小学校の教科書に採用された。