小布施の秋
📒【小布施の秋】
福永武彦
「小布施」
木村茂銅版画集
1977
銅版画 木村茂
文 福永武彦
木村茂銅版画集〈小布施〉は、限定75部。版画用紙はアルシュを使用し、全点作者による自刷りである。この版画集に福永武彦は文を寄稿している。
小布施の秋
(序に代えて)
・・・私は小布施の町については極めて僅かのことをしか知らない。或る年の夏の終わりから秋の更ける頃まで、その町にいたことがあるというただそれだけである。
・・・私はその年、昭和四十五年に、小布施の町に二月ほどいた。但しそれは旅人としていたというよりは病人としていたのである。
・・・小布施の新生病院についてはかねて聞き及んでいた。カナダの聖公会が経営していた結核専門のサナトリウムで、私の伯父がそこに長らく入院していたことがある。
この版画集は、製本綴りがされていない「本」です。この中でしか読むことができない福永武彦の「文(エッセイ)」があります。全七ページ(B3紙二枚文)の中に、新生病院の句碑になる歌があり、文の内容は新生病院の日常と小布施の風景を描いています。
・・・
朝の起床、三度の食事、安静時間の初めと終り、それに就寝時間の消燈などの時刻になると看護婦さんたちが演奏しているシロフォンの音色がスピーカーから流れてくる。安静時間になると栗林(庭にある)から栗拾いをしている看護婦さんたちのコーラスが聞こえてくる。小布施が栗の名産地であり、そして病院の敷地まで栗林がある。病院の敷地に隣接して林檎畑、巨峰畑があり、畑の持ち主に好きなだけおとりなさい、といわれ喜んだ。松川の堤の上を歩き、雁田山を眺め、岩松院のほうまで歩いた。
・・・
福永武彦が新生病院で過ごした期間は僅か二ヶ月。「こういうところでのんびりと暮らしたらどんなにかいいだろう、と埒もないことを考えていた。」と書き記しています。