真珠夫人
真珠夫人
菊池寛 1920
貴族院議員唐沢男爵の令嬢「瑠璃子」は相思相愛の恋人杉野直也と別れ、金と奸策で父を苦境に追い込んだ戦争成金の貿易商荘田勝平の後妻となる。勝平には知恵遅れの勝彦という息子と清楚な美奈子という娘がいた。瑠璃子は荘田家に嫁いでも貞操を守り、勝平を寄せ付けない。勝平はどうにかして、と葉山の別荘に誘う。嵐を衝いて勝平は暴力で瑠璃子に迫るが、突如現れた勝彦に襲われ命を落とす。
結婚生活の無いまま未亡人になった瑠璃子は、その時以来別人のように荒んでしまう。瑠璃子は天性の美貌と富で社交界に君臨し始める。その聡明な機知と自由奔放な所作は多くの青年を魅了し、瑠璃子は自分を慕うそうした青年達の心を弄ぶのであった。
「男性は女性を弄んでよいもの、女性は男性を弄んでは悪いもの、そんな間違った男性本位の道徳に、妾(わたくし)は一身を賭しても、反抗したいと思っていますの」
・・・・・真珠のような美貌の瑠璃子。
この「真珠夫人」は、新しい風俗としての自動車、別荘などを背景に置き、現代社会の資本家の悪を描きだす一方で、男性中心の制度や思想を、新しい女性「瑠璃子」に批判させている。そして、男を弄ぶ女でありながら、義理の娘を妹のように愛し、初恋の相手を想い続けていた「瑠璃子」の真実の姿が明かされる。・・・この作品が人気を集めた理由でした。今日に至るまで度々ドラマ化されています。
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美奈子は、その写真を見たときに、母の本当の心が判ったように思った。母が、黄金の力のために偽の結婚をしたときも、美しき妖婦として、群がる男性を翻弄していたときにも、彼女の心の底深く、初恋の男性に対する美しき操は、汚れなき真珠の如く燦然として輝いていたのであった。
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