風立ちぬ
📘『風立ちぬ』
堀辰雄 1938刊行
「私、なんだか急に生きたくなったのね……」 それから彼女は聞えるか聞えない位の小声で言い足した。「あなたのお蔭で……」
高原の風景の中で、病に冒されている婚約者に付き添う「私」。やがて来る愛する者の死を覚悟し、二人の限られた日々を描いた物語。
堀辰雄(1904~1953)
東京都生まれ。府立三中から第一高等学校へ入学。入学とともに神西清と知り合い、終生の友人となる。高校在学中に室生犀星や芥川龍之介の知遇を得る。一方で、関東大震災の際に母を失うという経験もあり、その後の彼の文学を形作ったのがこの期間であったといえる。在学中の大正12年(1923) 19歳の時、室生犀星に誘われて初めて軽井沢を訪れた。その時の印象を、神西清にあて「道でであうものは、異人さんたちと異国語ばっかりだ。」と書き送った。以後軽井沢滞在を繰り返し、軽井沢を舞台にした作品を多く残した。
1934年、矢野綾子と婚約するが、彼女も肺を病んでいたために、翌年、八ヶ岳の療養所にふたりで入院する。しかし、綾子はその冬に亡くなる。この体験が「風立ちぬ」の題材となった。代表作「風立ちぬ」は難産の末、昭和12年(1937)冬、軽井沢桜の沢の川端康成別荘において完成させた。