サラジーヌ
🖌オレノ・ド・バルザック (1830)
📎物語は、パリの富豪ランチ家の舞踏会に、場にそぐわない一人の異様な老人が登場するところから始まる。物語の前半はこの老人及びその背景の一族の繁栄を描写する。果たしてこの老人は何者なのか?
📖芸術家サラジーヌはイタリアの劇場でプリマドンナ『ラ・ザンビネッラ』に出会い狂気のように愛する。「彼女に愛されるか、それとも死ぬかだ。」気まぐれで挑発的な彼女には『チコニャーラ枢機卿』というパトロンがいることを知る。サラジーヌは彼から彼女を奪う計画をたてて時を過ごしていた。・・・・ある日、大使の屋敷での彼女のコンサートで電撃的な真実を彼は知る。ラ・ザンビネッラは去勢歌手だったのである・・・・。その夜、計画通りにサラジーヌは彼女を誘拐するのに成功。彼は愛する彼女を詰問する。彼女はサラジーヌを玩弄していたことを告白し、泣きながら彼に許しを請う。サラジーヌが剣を取った時、チコニャーラ枢機卿のもとから遣わされた男たちが入り込み、サラジーヌは殺害される。
✍️バルザック31歳の時の作品です。去勢された歌手=カストラートは14世紀あたりから出現し、19世紀半ばまで実在していました。生まれも身分も関係なく、才能があれば富と名声を得ることができました。
✍️女と信じ込んで男を殺してしまう、という話(逆もしかり)は小説、漫画などいくつもあります。女装の美少年。男装の麗人。歌舞伎の女形。ギリシャ神話。・・・・「性」を判断するのは身体の機能を要求する社会なのか、それとも精神を見つめる自我なのか。答えが出ない限り、いまだに人は美しき者達に夢をみる。そして、そこから一線を越える結末は不幸であり続ける。
👠「この世はあたしにとって砂漠も同然。あたしって呪われた女ね。幸せを理解し、感じ、望むように創られていながら、いつも幸せが逃げていくのを目にする定め。もっともこんなことは世間にはよくある例だけれども。・・・・これだけは憶えていて頂戴。あなたを騙すつもりは無かったの。あたしを愛することだけはやめていただきたいわ。」
📎ラ・ザンビネッラはのちに巨万の富を得て、パリ社交会で繁栄する。始めに登場した不思議な老人こそ、生き残った『ラ・ザンビネッラ』その人である。歌姫として活躍したザンビネッラによってもたらされた巨万の富が、今宵の舞踏会の主催、ランチ家の財産の元なのであった。
✍️パリは、いかがわしい財産でも、血塗られた財産でも、えり好みをせず迎え入れてしまう町なのだと、人に嘆きを与える。
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