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99匹のうちの1匹

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2023年1月の記事一覧

26. 夜明けの愛憎

26. 夜明けの愛憎

 99匹のうちの1匹

冷たさを訴えたのち、私はまだ他人の手のひらを握ったことがないと気がついた。
あぜ道の湖畔で。

この冬は、とても冷え込みますから。
焼けるように暑い夏を恋しく思いながら、
いつまでも冬将軍に襲われている。
肉体の老化と共に衰退した感情は、
もはやずっと前に独り立ちし、
海を渡り、
私だけのものではなくなってしまった。
認識できない自己が本当に自己なのか、
それだけが、冬の銀

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27. 抉るほどの傷はない

27. 抉るほどの傷はない

 99匹のうちの1匹

抉った傷の、鮮血な血飛沫を知っているから、
僕は自分のカラダを見て
一抹の安心と、奈落の不安を覚える。
手を掴まれて振り解けないから
ずっと
このまま、この世界から離れられない。

見つからない傷口を
ぐちぐちといじっているだけ

実際、
僕は少しもその痛みを感じられないまま
大人になって
明日生きる責任を取っている。
屍の横で