空を見上げれば。
3年前、体調を崩して精神科に通っていたとき。主治医の先生から言われたことを、いまでも覚えている。
「自然に触れると良いですよ。大いなるものと対峙すると、良い意味で自分がちっぽけだと感じますから」
そんなもんかぁ、と半信半疑ながら、翌日には高尾山に向かい、ひとりで山頂まで登った記憶がある。
実際、山を登っている間は、脳内を渦巻く暗いものの影は見当たらずで。身体を動かしているのも相まって、その日は心地好く過ごすことができた。
回復して久しく経ったいまでも、主治医の言葉を思い出す。なにか悩んで気分が落ちすぎたときは、大いなるものに思いを馳せ、その途方もなさに呆然とするようにしている。
そのなかで最も簡単なのは、空を見上げること。広い空を漂う雲を眺めていると、いつの間にか呼吸が深くなっている。なんだか、憑き物が落ちた感覚になる。
パッと見上げるだけではいけなくて。少なくとも10秒は眺めてみる。できれば、数分。芝生があれば、寝転ぶとベスト。
吹き抜ける風や、冷たい空気を感じながら、空を見上げる。たったそれだけ。たったそれだけなのに、僕の心はふっと軽くなる。
人間は、ちっぽけな存在。別に、だからといってモヤモヤを矮小化したいわけでもないし、悩む必要がないと言いたいわけでもない。どれだけちっぽけな存在だとしても、苦しみは存在する。
けれど、空を見上げてスーっと息を吸う。そんなわずかな瞬間が日常にあるだけで、ほんの少し生きやすくなると思うから。
今日も、伸びをして深呼吸をしよう。
(執筆:安久都智史)
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