アイデンティティ

1人用台本
主人公:男子高校生

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「※※くんって、絵が上手だよね!」
僕はその一言で僕を知ってしまった。


彼女にそう言われたのは、僕が小学生の頃だ。
その子は当時クラスみんなから好かれていて、明るく優しく可愛かった。
対して僕は正反対。
休み時間はノートの隅に落書きをし、誰かと積極的に話すようなタイプではなく、関心があると言えばやはり絵を描くことくらい。
その日も落書きをしていた。
彼女は何故そんな僕に話しかけてくれたのか。
いや、実際そんなことに彼女は深い意味を含めていなかっただろう。
目がついたから話しかけた。
ただそれだけのことだ。

それでも、僕からすれば誰かから話しかけられるなんてことは多くなかった。
多くなかった上で、可愛いあの子から突然褒められてしまったものだからびっくりした。
びっくりしたもんだから、小声でありがとうと言ってそれ以降は話せなかった。

その後彼女はすぐに友達から呼ばれて去っていった。
彼女と授業以外で話したのはそれだけだった。
中学からは生徒が増えた影響で同じクラスになることは無かった。
そのまま高校へ進学し、彼女は別の高校へ行った。

僕は高校に上がってからも特に仲のいい友達ができる訳でも無く、今日も休み時間は1人。
そして進学してから無気力さに拍車が掛かってきた。
誰かに観られると恥ずかしいので落書きは小学生の頃ほどはしていない。
それでもなんとなく家では絵を描いてみている。

でも、小学生の頃よりも上手くなっているどころか、どんどん下手になっている気がする。
動画を観て練習もしてみてはいるが、上手くなる気配は無い。
自分でも薄々気づいている。
今の僕は別に絵を描くことが好きでは無いと。
今までやってきたから、前は楽しくてやっていたから。
それを続ければ多少は楽しい日々になるのでは無いかと思った。

でも実際はそんな理由では無いのだろう。
僕は小学生だったあの日、彼女に絵を褒められてから「絵が上手な人」になった。
それ以外に自分を捉える術がなかった。
だから「絵が上手な人」を続けるために絵を描いていたが、そう言ってくれる人は今はいない。
自分でも絵が上手くないと感じてきた。
では誰が僕の存在を認めてくれるのか?
「絵が上手な人」として出来上がってしまった僕は絵が上手でなければ何が残るのか?
何もかも分からない。
分からないまま今日も絵を描き、無気力な日々を過ごす。
また、「絵が上手な人」になれることをぼんやりと考えながら。

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