科戸之風
僕は風が好きだ。
と言っても、どんな風でも好きってことはない。
雨が降っているときの風は濡れるから嫌だし、砂埃が舞う風も嫌いだ。
僕が好きな風は冷たい風、ただ冷たいだけじゃなく秋の夕暮れに吹く風が好きだ。
ほのかに暖かさが残る体に滲みる風。夏のあつさを洗い流す風。
それはどんな氷水よりも体を冷やし、どんな写真よりも夏を思い出させる。
蒼い風に飲まれ、朱い太陽を感じる。
どんな秘境よりも、どんな物語よりも幻想的な体験がそこにはあって、この瞬間だけは僕がこの世界の主人公になれる。
君はどんな風が好きなんだ?
僕のように冷たい風?それとも暖かい風?
どんな風が君の背中を押してくれるんだい?