「おいしいごはんが食べられますように」高瀬隼子
第167回芥川賞受賞作。
職場内での人間関係が、食べ物を交えて描かれている。
タイトルにある「おいしい」という気持ちをテーマに、人間の奥深くにしまわれた感情が表現されている。
主に二人の視点で物語は進む。
似ているようで正反対な二人。
同じ行動にもそれぞれ違った思惑があり、人間の黒い部分が見え隠れし怖さを感じた。
本音と建て前
主人公の職場は本社の支店で、事務所内の人数やメンバーは限られている。
このような閉塞的な環境で生き残るには、軋轢を生まずに上手に会話しなければならない。
心の奥底では黒い感情を持ちつつも、表面上ではにこやかに対応する。
誰でも本心と表向きの顔は違う。
しかし、本書では内面に潜む黒いモヤモヤしたものをいい意味でしっかり表現されている。
他人の感情を考えることがあまりないだけに、負の感情の表現には度肝を抜かれた。
「うわぁ」と声が出る
内面に潜む黒い感情を抱えているのに、表面上では仲良くできるのってすごい。
にこやかに話しているのに対し、心の内では結構ひどいことを考えている場面もあり、思わず読みながら「うわぁ」と声が出た。
私にとっては衝撃的な場面が多い本だったと思う。
食べることへの考え方は人それぞれ
私は食べることが大好きだ。
おいしいものを食べると幸せになる。
でも、皆が皆そういうわけではない。
生きるために仕方なく食べている。
食べることに興味がない。
食べるのが面倒くさい。
果たして、おいしいものが好きな人と生きるためだけに食べる人は共生できるのだろうか。
なんとなく、話の続きが気になる終わり方だった。