なぜ生きているのか。「DEATH STRANDING(デス・ストランディング)」で人生を振り返った。
タイトル:「DEATH STRANDING(デス・ストランディング)」
ハード:PS4・PC(Steam、Epic Games Storeで配信)
発売日:PS4版/2019年11月8日 PC版/2020年夏配信予定
ジャンル:アクションゲーム・ストランドゲーム
物語:
デス・ストランディングという原因不明の現象で、世界は崩壊し人々は分断された。伝説の配達人サム・ポーター・ブリッジズはアメリカを再建し世界を再び繋げる為に、孤独で過酷な「未来」を運ぶ任務に就くのだった。
特徴:
新しい形のオンラインシステム「ソーシャル・ストランド・システム」が最大の特徴。
従来的な対人プレイや協力プレイでゲームを進めていくのではなく、フィールド上の他プレイヤーが使用した(もしくは落とした)装備品や乗り物を使ってゲームを進めていく。逆に他プレイヤーの為に、難所にアイテムを置いていくこともできる。また、それらアイテムを「イイね」などのアクションでコミュニケーションを取ることができる。
「荷物を運ぶ」
デス・ストランディングのゲーム内容を簡単に説明するとこうなる。もちろん重厚なストーリーやアクションも十分楽しめる要素なのだが、そのシンプルなゲーム内容が、これまた時間を忘れてしまうほど面白い。
まず、荷物を指定場所まで届けて欲しいと依頼される。じゃあ行ってきまーすと荷物を持って出ていきたいところだが、ここはデス・ストランディングによって崩壊した世界。舗装された道路などなく、荒地を歩くことだってある。状況によっては川を渡ることだってあるし、雪山を登ることもある。
焦らず、まずはマップを広げて配達ルートを決める。安全な道はどこかを見極め、必要なら「梯子」や「ロープ用パイル」などを用意する。
よし、準備はOK。じゃあ行ってきまーすと言いたいところだが、まだ待って欲しい。ここはデス・ストランディングによって崩壊した世界。「BT」という幽霊のような異形の存在。アメリカ再建を邪魔するテロリスト。荷物を奪うことを目的として生きる元配達人たち。外は危険でいっぱいだ。
荷物と身を守るために、BTに効果のある「血液グレネード」を持っていこう。テロリストを蹴散らすための「ゴム弾アサルトライフル」も必要だ。連戦にも備えて「血液袋」も余分にあれば最高。さあ出発だ。
このように依頼を始める前から、状況に適した配達を考えるのが非常に面白い。さらに重量も考慮しなければいけないので、取捨選択も重要になってくる。
シミュレーション通りに装備品を使用し、危険箇所を踏破した日、僕はぐっすり眠ることができた。久しぶりの快眠だった。
シミュレーションゲームの作戦や戦略を練っている時間が好きな人はたまらない要素だろう。
なにを運ぶのか。なぜ運ぶのか。
運ぶ荷物は生活品や医薬品、娯楽品など多種多様。
荷物を必要としている人々は地下シェルターに避難している。外に出ることができない人々にとって、荷物を届けてくれるサム(プレイヤー)は貴重な存在だ。
荷物を託す側と必要としている側を繋げる。プレイを進めていくと、送り届ける事の本質が見えて来る。依頼人が誰かを想い、荷物を託す。そして必要としている人に送り届けた時、「自分を想ってくれた人がいる」と気付く。点だった「想い」が線となって繋がる。サムが運ぶのはただの荷物ではないんだと胸が熱くなり、より感情移入してゲームに没入していく。
目には見えないけど、そばに感じる。
このゲームをプレイしていると、常についてまわる感覚がある。孤独感だ。
カイラル通信(ネット通信のような技術)を繋げる為に、サムは拠点間を移動する。積み上げられた荷物を背負い、雪山や崖を登り、時には異形な存在に追われ、ボロボロになりながらも依頼を遂行する。次第にサムの姿を見るのが辛くなってくる。
また、ゲーム中は広大なフィールドを歩いている時間が大半を占めるので、考える時間も自然と増える。ふと「見返りもないのに何でこんなことするんだろう」と考え、サムの姿に自分の人生を重ね、忘れかけていた過去を振り返って後悔したりする。なんてゲームなんだ、デス・ストランディング…。
やっとの思いで新たな拠点にたどり着きカイラル通信を繋ぐと、それまで殺風景だったフィールドに突如として看板や橋が出現する。看板には「お疲れさま」と書かれており、帰り道では橋を使って楽々と帰ることが出来た。その時、孤独じゃなかったんだと強く実感した。
この独特なオンラインシステム「ソーシャル・ストランド・システム」がプレイヤーに新しい感動を与えてくれる。
ゲーム内では他プレイヤーは一切現れないが、他プレイヤーが使用した梯子やロープ、建築物はフィールド上に反映される。これにより装備品を切らした状況になっても、誰かがその場で使用した装備品などがあれば、自分も使えることができる。バイクのバッテリーが切れかかっても、誰かが建てた充電装置で難を逃れたことも多かった。イレギュラーが続き、絶望的な状況になればなるほどこのシステムのありがたみが増す。この地獄を孤独に戦っているのは自分だけではないんだと奮い立つ。
逆に自分が設置した梯子やロープ、建設物も誰かの助けになることもあるので、僕は絶妙なところに橋を建てるというプレイに一時はまっていた。他プレイヤーの装備品や建築物は「イイね」することができるので、イイね欲しさに建てまくっていたのだが、全然イイねされないのに絶望し、程なく止めた。
世界は救われず、ただひたすらに橋を建てる狂気の人間になるという、ある意味でのゲームオーバーになるところであった。
プレイヤー同士が直接関わり合ってプレイするゲームも楽しいが、間接的な関わり合いだけで進められるこのゲームは、既存のゲームに少し疲れた人に新感覚を与えてくれる。
このゆるい繋がりがゲームの箇所箇所で効いてくるので、飽きることなくプレイすることができた。
ありえないけど、ありえる世界。
個人的に最もお勧めしたいポイントは「ぶっ飛んだ世界観」だ。
生者と死者が交わる世界。それがこのゲームの舞台である。
「BT」という通常では眼には見えない幽霊のような存在がいる。サムに襲いかかり、最悪の場合には大爆発を引き起こし多数の死者を出してしまう厄介な存在だ。
ゲーム内ドキュメント(世界観を補足したり奥行きを与えてくれる読み物)では、「BT」の存在により人々は死後の世界があると認識し、今まで信じてきた概念や宗教が信じられなくなり絶望してしまったという。中にはシェルター内で自殺してさらなる「BT」を生み出すきっかけにもなり、人類は精神的にも過酷な状況に追い込まれているのだ。
また、あの世とこの世の境目である「ビーチ」という空間も存在する。この「ビーチ」という空間を利用し「カイラル通信」という大容量かつタイムラグなしの超技術を可能にしているというのだ。
この「カイラル通信」を使えば、限定的な物質を扱い、建築物を3Dプリンターの様に瞬時に建てられることができる。現実ではあり得ないことだが、「死者の世界が繋がった」という未知の現象が、ゲーム内のフィクション部分を補って説得性を増しているのだ。
他にもミュールという配達依存症になってしまった人たちがいる。ミュールは道ゆく配達人から荷物を奪うのだが、別に生活の為というわけではない。荷物を配達し感謝されたいから荷物を奪うのである。歪んでいる人たちなのだが、前述の通り僕もイイねを貰いたいが為に橋を建設しまくっていたのでぐうの音も出ず、なっていたかもしれない自分を見るようで胸が痛んだ。
ゲーム内の問題を、現実の世界の問題にもリンクさせ、「ありえるかもしれない」と思わせる設定に、僕の好奇心は掻き立てられた。
攻略本や設定資料集が好きな知的好奇心が旺盛な人ならば、デス・ストランディングは想像力をガンガンに刺激する作品なのでお勧めできる。
なぜ生きているのか。
物語の終盤、デス・ストランディングの真実を知り僕は愕然とした。
これまでサムがボロボロになって荷物を運び、BTと血まみれになりながらも闘い、人々を救うために希望を繋いだことは、無意味だったのではないかとさえ思った。しかし、真実を知ったサムがとった行動に心を揺さぶられ目頭が熱くなった。
無意味だと知っていたら、果たしてそれをしなかったのか。いや、違う。僕はサムと共に紡いだ、これまでの道のりを自分の人生に重ね合わせていた。
何かがどこかに繋がっている。それは五分後かもしれないし、死ぬ間際かもしれない。いや、死んだ後でも。雑多なものに追われ、理解もされず報われず、無価値と思われたことに忙殺された日々の中に、自分も知らない誰かに、繋がる何かがある。
ぜひ、このラストは自分の手で迎えて欲しい。今ではゲーム実況動画などで物語を追うことも出来るが、デス・ストランディングは自分の手でコントローラーを握り、自分だけのプレイをすることで完結するゲームだ。