【小説】Lento con gran espressione(3)
お客さんが頼んだぶんだけコーヒー豆を挽く。アルコールランプに火をつけてフラスコに入った水を加熱する。サイフォン式の入れ方で、気圧の変化で上部のロート部分に下で沸かしたお湯を移動させるやり方だ。この入れ方はレインドロップの名物だった。カウンターにいるお客さんはその作業を眺めながら、会話を楽しんだりぼけっとしたりすることが多い。わたしたち店員もよく遠くから眺めている。
夜の十時になった。わたしと春菜ちゃんはテーブル席担当で今はお客さんがいない。接客することはなかったから二人で