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【短編小説】怒りとの待ち合わせ場所

『ヒトはなぜ自殺するのか』という本を手に取ったのは、自殺してしまった人が近くにいて、なぜそんな選択肢をとったのか分からなかったので彼の気持ちがどうにか知りたくなったという、たぶんとても一般的な理由だった。

読み終わった後に思ったのは、「これを読んで、死ぬ人の気持ちが理解できる人とできない人に二極化するだろうな」という確信だった。

一番最後に紹介されていた、サンフランシスコの橋から飛び降り自殺した男性の遺書にはこう書かれていた。

「これからブリッジに行く。途中でひとりでも微笑んでくれるなら、飛び降りるのはやめよう。」

この最後の言葉が、確信を感じる部分だった。

ちなみに、僕は後者だった。

僕は図書館でこれを読んでいた。

まどろんだ昼下がり、新聞コーナーのあたりには服を入れ替えただけみたいな量産型のおじいちゃんがやけに溜まっている。

ここから離れた、でも図書館の中心にあったこの本を少し強めに握りながら、たぶん周りから見ると、今の僕はただ読書をしているだけの、くたくたなスウェットを着用している成人男性なんだろう。

でも本当は、僕の心臓の一番下から、怒りが動き出すマグマのようにふつふつと湧き上がってきていた。

あまりにも勝手じゃないかと、僕は感じていた。

世の中には、膨大な数の人間がひしめき合っている。

そんな中で、誰か一人でもいいから自分が悩んでいることに気が付いてほしいなんて、あまりにも利己的じゃないか。

僕にだって、たくさん悩みがある。

つらかったら、へこむ時もある。でもそんな時に、気を紛らわせたり、誰かに声をかけてみたり、そんな風にして、頑張って生きている。

なぜそんなに、自分のつらさを過大評価できるんだろう。

めんどくせえやつだ。

僕が死んだときに、地獄で会って、絶対に、ぶんなぐってやる。

自殺されたのがショックで、休職している自分を棚に上げると同時に、本を棚に戻した。


おわり

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