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短編小説

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2023年6月の記事一覧

【短編小説】転校3年生

【短編小説】転校3年生

転校して初めて、体育の時間がやってきた。

卓也は体調がよくないから休む、と言ったので、運動場のすみっこでさんかく座りをしていた。

小学3ねんせいになって、梅雨がおわって、太陽は性格がかわったみたいに照りはじめている。
夏休みが思いやられるなあ、と卓也は、自分の足のさきをぼんやり見つめた。

あついのはきらいだ。

遠くで男子がサッカーをしている。
女子は体育館でちがうことをしてるようだった。

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【短編小説】ゆめ

【短編小説】ゆめ

ゆめだ、と思ってから、私の身体はこわばらなくなった。

だってそれだけで、悩まなくて済む。

ここにいる私はきっと、もうどんなしがらみからも解放されている。

さっきまで両手に握っていたロープは、もう離していい。

昔いなくなってしまった、猫のゆめが、小さくすこやかに鳴いた。

やっぱりこっちにいたんだ、と顔を緩めしゃがみ込むと、手元に近寄ってきてくれた。

ありがとう、と言うと、身体が波で覆われ

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【短編小説】努力もしてねえのに羨ましがるなよ

【短編小説】努力もしてねえのに羨ましがるなよ

「じゃああなたもやってみなよ」

佐々木さんから笑顔で言われて、自分の足元からスーッと感覚がなくなっていくのが分かった。座敷に座っていて良かったと思う。

こんな飲み会来るんじゃなかったと思っても、後の祭りだった。

足元に迫る崖の目の前で背中を押されるような不快感が襲ってくる。

大きな机にはたくさんの食べ物やアルコールが雑然と置いてある。その周りを取り囲むように騒ぐ職場の人間たち。

一番端に

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