おとぼけ顔の天使と出会った話
フランス買付の旅で印象に残ったエピソードをひとつ。
リヨン郊外の蚤の市エリアですでに重たい戦利品を抱えながら、
掘り出し物はないかなぁと物色歩き。
ある露店でビバンダム君がルーフに載ったミニカー発見!
黒いボディにイエローカラーがアクセントになっている。
ちょこんと膝を立てて座っている姿がかわいらしい。
いいなぁと思いを寄せ、背の高い男性店主に売値を確認した。
交渉術を思案していた
その時
バサッと音がしたかと思うと、
その店主はどこかに走り去ってしまいました。
わたし、心は買う方に傾いているのですけど…
店主さんどこに行っちゃったのでしょうか?
ビバンダム君のミニカーをてのひらに載せてくるっと振り向くと、
道中で年配のマダムが地べたにかがみ込んで
声をあげて叫んでおられる背中が見えました。
目を凝らすとパートナーらしき年配の男性が倒れているよう。
そしてこのお店の店主が毛布を敷いて見守っているのです。
そうなのか…お買い物中の知らない誰かが倒れたので
素早く駆けつけていたのだ。
待ってみよう。店主さんがかえって来るまで。
そんな折、男の子の手を引いた男が店にやって来た。
男はカトラリーのたくさん入ったトレーから
ナイフ1本を手にとり辺りを見回した。
目が合った。
店主はどこか?と聞きたかったのだろう。
私が店主のいる方を合図すると理解したのか物色を続け、
手に握っているナイフは2本、3本と束になって行った。
私も宝探しを続行しつつ店主の帰りを待った。
が、なかなか戻って来ない。
あとしばらく帰ってこないのなら
ビバンダム君とは縁がなかったと諦めようかとも思い始めていた。
ところが隣のカトラリーを触る音がだんだん派手になって来て…
なんだか嫌な予感がする。
良からぬことを考えているのかしら?
離れたところで店主が人を介抱している時に、
私がいなくなるとどうするのかしら?
店を出るのは店主が帰ってきてからにしよう。
なんだか通りすがりのおばさん目線になっていた。
子供の前で、どうして良からぬ事を…
危ない、危ない。自分の荷物も気をつけよう。
疲れた身体の動きと同じくらいゆっくりと
その場の空気を敏感に感じていました。
少ししてやっと店主が戻ってきた。
介抱されていた方が落ち着いたようだ。
ナイフを握りしめていた男と二、三の言葉を交わすと
束のナイフはガチャガチャと音を立て
全て手放された。
…1本も要らなかったんだ。
反対の手で坊やと手を繋いでゆっくりと立ち去った。
良かった。
ホッとしたところでお買い物再開。
ビバンダム君のミニカーは心に決めていたんですが
緊張がほどけた心のスキマに入り込むように
天使のキャンドルスタンドが目に入りました。
素材は一流品ではないけど感じがいい!
天使は陽気に小躍りしているよう。
ちょっとおとぼけなお顔で
天使というよりいたずら小僧!
連れて帰ろう!
このやさしい店主の店で快く買おう!
買付で品物に魅了されて決めることは言うまでもないですが、
店主を好きになって品物選びをすることも私の判断の基準です。
そんなわけで、おとぼけ顔の天使君が遠く海を渡り
日本での初めてのクリスマスを迎えることになりました。
ほんの10分間のエピソード。
お付き合いくださいまして
ありがとうございました。