忘れられない女性
忘れられない女性がいる。
その女性は20年ほど前、地下鉄に乗っていた。
とても空いている車両で私は彼女と向かい合わせの席に座っていた。
ピンと伸びた背筋。
清潔で高級そうな、それでいてトラッドな装い。
50代ほどだろうか。もしかしたらもう少し上かもしれない。
綺麗に手入れされた髪。
取り立てて着飾った様子もないシンプルな出立なのに
不思議と目立っている。
彼女は本を読むわけでもなく、ただただ前を向いてピンと座っている。
ハッとして思わず見惚れてしまった。
あまりにも素敵なのである。
座っているだけなのに彼女のまわりだけ空気が清廉なのだ。
どこかで似たような人をみたことがあると思ったら
お寺の若いお坊さんだった。
そのお坊さんも背筋がまっすぐで、清浄な空気を纏っていた。
あの雰囲気は姿勢の良さからきているのか、わからない。
まるで蓮の花が一輪スッと立っているようなあの女性を
今でも時々思い出す。
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