83.はじめから無理な恋
はい、203号室の南雲あかりです…
東さん、どうしてここに…?
心配かけちゃった。探してくれるなんて、『たまひらハイツ』のみんな、優しいのね。
優しくしないでよ。優しさにも慣れてないんだから…
海ってすごいよね。どんな雨も吸い込んじゃうの。
そう。わたしは悩んだら海に来る…
わたしの中にいる妄想の中のわたしは、いつだって、何だってできるの。
誰からも愛されて、輪の中心にいるムードメーカーで、自分の好きな人に恋をしてもらえる。
でも現実は真逆でさ。何もできない、どうしようもないわたしがいる。
自分の人生についていけなくて、足がもつれて、何度も転びそうになる。
いや、転んでる。その時に開いた傷口のふさぎ方も分からない。
傷付く度に、失う度に、強くなると思っても、次また傷付く時には、また一から傷付き直してる。痛みって、いつまで経っても慣れないのね。
西口さんとは、はじめから無理な恋だったのかな…
泣いてない!これ、雨だから…
東さんにはそう言ったけど、無理あるよね。
見ることはないと思っていた、翔君のお母さん。
わたし、お母さんになる自信ないなって思った。
翔君のあんな嬉しそうな顔、見たことない…
所詮本当のお母さんにはかなわない。わたしはお姉さんどころか、ただのオバさん。
東さんはわたしに、大丈夫っていうの。何の根拠もないのに。
何が?どこが大丈夫よ…
その人の全てを受け入れて、前の奥さんのことも、翔君のことも、ひっくるめて好きって言えるのが本当の愛?
なら、わたしは全てを受け入れて、好きになれるような人じゃない。
わたしは、そんなできた人じゃない。
ねぇ、東さんはどうして、わたしの恋を応援してくれるの?
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?